だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版






話がひと段落すると、ふぅっと息をついてビールを飲み干した。


森川は少しお酒が回ってきたのか、疲れのせいでくっきりと二重になった目が垂れ目になってきた。

ちょっと眠そうだけど、ご機嫌でにこにこしている

その顔を見て、やっぱり森川の方が飲み行きたかったんだな、と思った。



最近は仕事のサポートをしてあげる機会も少なかったから、色々話をしたかったのかもしれない。





「水割りに変えてもいいかな?」




一応、森川に確認する。

三杯目のビールはさすがにお腹が苦しくなってきていた。

いつもはこんなに飲むことがないのに、とても美味しくお酒が進んだ。




「そうだな。俺もビールはもう十分だ」





それを聞いてカウンターに向かって焼酎を頼む。

その時、目の前から香ばしいバターとお醤油の匂いがして覗き込む。

目の前では貝付きホタテがバター醤油にして焼かれていた。

立ち上がった私の横で、真っ直ぐホタテに向かって森川も焼き台を覗き込んでいる。


確か森川はホタテがとても好きだったはず。

さっきからずっと一点集中の目でホタテを見つめているので、可笑しくなって笑ってしまった。




「すみません、ソレ、二つお願いできますか?」




注文をしてカウンターにもう一度腰掛ける。

隣でも同じように椅子に座ったのを確認して顔を見る。




「ビールで苦しいんじゃないのか?」


「だって、森川がモノ欲しそうに見つめてるから、食べたいだろうな、って思って。実際、私もイイ匂いに釣られたわけだし」




そういうと嬉しそうに笑って、また焼き台の方へ目を向けた。


そんなに見つめたってすぐには出てこないよ、と思いながら差し出された焼酎のセットを受け取った。