だから私は雨の日が好き。【春の章】※加筆修正版






不器用な言葉は、まっすぐに響く。



この人が『しぐれ』と呼ぶ音。



柔らかいひらがなの呼び方を、好ましく思っているのは事実だ。




周りの女子社員が、櫻井さんを『素敵』というのはこういう所なのかもしれない。

そんなことを、ほんの少しだけ想った。

本当に少しだけ。




「じゃあ、ちゃんと育ててあげないとダメですね」


「育てるのは俺の仕事だろ?」


「あら、事務作業だけは私が育てあげます。櫻井さんより優秀な社員にするんですから」


「厳しいこと言うなよ。俺はまだマシな方だと思ってるんだけどな」




十分ですよ、という言葉は飲み込んだ。

さっきのお返しだ。



これ以上事務処理能力を着けられたら、私の仕事が本当になくなってまうから困るんだけど。

まぁ、それもアリかな、なんて思っていた。




「たまには、こうやってココア入れてくださいね。そしたらお礼にコーヒー入れますから」




しっかりと目を合わせて告げる。

櫻井さんはきょとんとしているけれど、意地悪く笑っている

いつもの『ニヤリ笑い』が戻ってきて、私もつられて笑う。




「そんなことでいいなら、いつでも。ただし、牛乳切らすなよ」


「はい」


「ほら、そろそろ戻らないと。尾上部長、探しに来るぞ」


「あ、ほんとだ。急がないと!」


「あっ、オイッ!置いてくなよっ!」