「あ、あの…!」
「…悪い!痛かったか?」
莉々野が俺に声をかけた。いつの間にか強く抱きしめていたようだった。俺は慌てて莉々野の体を離した。
「いえ…そうではなく…あなたの…お名前を教えてくれませんか?」
そういえば、まだ名前を教えていなかった…。
「俺は…神崎聡。この辺りで金関係の仕事をしてる。」
「お金…ですか…。」
「あぁ、そうだが…何か?」
「だったら納得がいきますね。」
「どういうことだ?」
莉々野は微笑みながらなにかを察したように納得している。
「お金関係のお仕事でしたら部屋がこんなに広いのもわかります。」
「お前…探偵じゃないよな?」
俺がそんなことを言うと莉々野はきょとんとした顔になった。
なにかまずいものでも聞いたか?
「あの〜…莉々野拓篤ってご存じですか?」
莉々野拓篤…聞いたことがある。どこだったかは忘れたが…。
「私、その人の娘なんです。」
思い出した!!あの探偵か!!
「ということは…推理力は父親譲りということか…。」
「多分ですがそうなります。」
納得がいく。
莉々野拓篤は有名な探偵だった。
…確か2、3年前に事故で亡くなったんだよな。
推理力と観察力は父親譲りか…。凄い奴だな。莉々野雪。
「どうかしましたか?」
莉々野は心配そうな顔で俺の顔を覗きこんできた。
「なんでもない。大丈夫だ。」
「よかった。」
優しい微笑みに変わった。
やばい…理性が飛びそうだ。
「あの…私、帰りますね。看病ありがとうございました。」
「待て!!」
「え?」
思わず腕を掴んだ。
何をしてるんだ俺は…ただ、どこにも行かせたくないとか誰にも渡したくないとか……
「ん!」
頭の中がぐちゃぐちゃになって勢いあまって莉々野にキスをした。