市の中心部に戻る路面電車のライトが、線路の南側から見えた。
私はその徐々に近付いてくる光を見ながら、今までの事を思い出していた…
江藤…
ひょっとして、クラスメイトの江藤なのではないだろうか?
以前の校門検査の時、滝口先生に対して何か弱味を握っているかの様な口振りをしていたし…
そういえば、美玖の家から帰る途中に、お寺から出て来る江藤に会った事も…
あの時、身内がどうとか言っていた様な…
江藤の連絡先なんて分からないけど、とりあえずあのお寺に行けば何か分かるはずだ。
でも、卒業アルバムに江藤なんて名前は無かった様な…
電停ごとに停車し遅々として進まない電車にイラつきながら、低く立ち込めた雲を見つめていた。
もう暫く…
せめて明日まで降らないで欲しい。
やがて電車の前方に、市役所の白い建物が見え始めた…
この前を通り過ぎれば、あのお寺まで一番近い電停はすぐだ。
電車は信号待ちから発車し、市役所を通過した。
私は待ち切れずにシートから立ち上がった。
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