路面電車は駅前を出発すると、市の中心部を経由して海へと向かう。
土曜日だというのに、座れないほどではないが意外と乗客は多い。
しかし、その乗客の9割近くは市の中心部を通過するといなくなった。
私はほんの5、6人しか乗っていない電車の後方に座り、ぼんやりと向かいのシートを眺めていた。
「…次は実幸町、実幸町。お降りの方は前の方に……」
あ…
ここだ、降りないと。
私は減速し始めた車内を、吊り革に掴まりながら降り口に向かった。
電車から降りると、そこは古い住宅が並ぶ狭い路地が入り組んだ街だった。
とりあえず私は、電柱に貼られた番地を確認しながら、車がやっと通れるくらいの路地に入って行った…
「2―23…2―24…
この辺りのはずなんだけど…」
黒ずんだコンクリートブロックの塀づたいに曲がると、黒い鉄格子の門があり、郵便受けに"城ヶ崎"と書いてあった。
「城ヶ崎…ここだ!!」
見上げるとそこには、青い屋根の2階建の木造住宅が建っていた。
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