きっと、あたしも蒼ちゃんも、こんなことになることを望んでいなかった。


幼なじみという枠に縛られなければ、あたし達はうまくやっていけたのだろうか。


いや、それ以前にあたし達は幼なじみでなければ出会うことすらなかっただろう。


あまりに違いすぎるあたし達。明るくて優しくて人気者の蒼ちゃんと、根暗で地味なあたし。本来ならば関わることすらなかったであろう水と油のようなあたし達は、幼なじみ以外でこんな仲にはなれなかっただろう。


幼なじみであることに感謝しなければならないのだ。


親同士も、あたし達が幼なじみ以上の感情を抱えていないことをわかっていたから一緒に暮らすことを許してくれたのだ。


でも、父さん母さん、あなた達の娘は悪い人間になってしまいました。あたしを信じてくれているのに、あたしはあなた達の思いを裏切ってしまいました。


薄情な娘だ。幼なじみで同居人の男を異性として好きになってしまった。そして、昨夜のキスは今までのスキンシップのようなものとはまるで意味の違うものだとお互い思ってしまっている。


なのに、悲しいことにあたしはそれを嘆く気はさらさらない。


むしろ蒼ちゃんでよかったと思ってしまっている。蒼ちゃんを好きになって、あんなキスをしてしまって安心すらしている。


最低な娘だ。最低な人間だ。


感情さえなければ裏切ることなんてなかったのに。どうしてあたしは蒼ちゃんを男と意識してしまったのだろう。


いっそこのまま消えてしまいたい。


あたしの存在なんてなかったことにしたい。


父さん母さん、ごめんなさい。蒼ちゃん、ごめんなさい。


茹でたほうれん草を切っていたら、あたしの目から熱いものが一粒まな板にこぼれ落ちた。