「後悔してんだ。あの時、付き合わなかったらあたしは学部で唯一の友達を失わずに済んだ。あたしが告白を促さなかったら、昌人があたしと付き合おうとは思わなかったんだろうなって」

「そうかな。たぶん、栗山くんはどっちみちともを傷つけてたと思うよ」

「そうかな」


蒼ちゃんはテーブルに手を伸ばしてライムのチューハイを飲んだ。


「人ってのは、大抵近しい人に意識を寄せるんだよ。遠く離れてる人に思いを寄せるってのは稀。大抵の男は、自分の近くにいる女とやりたいって考える。そんでだんだん好きになっていく」


あたしは蒼ちゃんの話に耳を傾けて黙っていた。


「たとえともが栗山くんを意識せずにあのまま仲良くやっていても、栗山くんから近づいてたと思う。少なくともともは栗山くんを引き付ける何かを持っていて、栗山くんはそれに引き寄せられていた。だから二人は付き合ってたんだよ」

「……そうなのかな」

「20年ずっと一緒にいた俺が言うんだから、間違いないよ」


蒼ちゃんはあたしの顔を覗き込んだ。


「栗山くんのこと、まだ好き?」


あたしは間髪入れずに首を横に振った。


「好きじゃない。未練もない」

「泣きたくならない?」

「ならないよ。昌人のためになんかもう泣かない」

「なら、よかった」


蒼ちゃんがへにゃりと表情を崩して笑った。