「とも」


蒼ちゃんがあたしの名前を紡いで唇を寄せた。


少しずつ少しずつ、あたし達の唇が近づく。


蒼ちゃんの唇に触れたら、どんな気持ちになれるだろうか。


この変な気持ちが何かわかるのだろうか。


そう思いながら、あたしはそっと目を伏せた。


「……ばかとも」


唇が重なる前に、蒼ちゃんがふっと息を吐いた。


「……へ?」


そっと目を開けると、普段の優しい目をした蒼ちゃんがそこにいた。


「冗談だってー。ごめんね、とも」

「へ?」

「お礼に体で払ってもらうとか、そんなことともにさせるわけないでしょお」


くすくすと笑いながら蒼ちゃんがあたしの頭を撫でた。


……騙された?


「目、明日腫れるかもしれないから、ちゃんと冷やしてから寝るんだよ」


蒼ちゃんの唇が額に触れた。


「おやすみ、とも」


何が起きたかいまだに理解できないあたしを置いて、蒼ちゃんは持ってきたお皿を忘れることなく持って、あたしの部屋を出て行った。


何もかもが理解しがたいけど、ただ額の蒼ちゃんの唇が触れた部分だけが熱を持っていることだけは理解した。