泣くのは専ら彼であって、あたしは全く泣かない子供だった。


あたしは三人姉弟の一番上で、下には双子の弟がいて、その当時親が双子の面倒を見ることで精一杯だったから、おそらく親に迷惑をかけまいと自然にそうなったのだろう。


そしてあたしは、自分が泣くことは恥ずかしいこととして認識していた。


彼が泣くのはいい。日常茶飯事だから。違和感の欠片もなかったから。でも、あたしはダメだ。あたしは慰める役回りなのだ。あたしは泣いてはいけない女の子なのだ。


自分にそう言い聞かせて、あたしはいつも彼を慰めていた。


ある日、あたしは自分より二回りくらい大きい男の子と喧嘩をした。


詳しくは覚えていないけど、確か彼のことだったと思う。二つくらい年上の大きい男の子が彼のことを悪く言って、あたしは怒った。そして喧嘩になった。


当然、あたしは負けた。口だけだったらまだ勝てたかもしれない。でも、あたしは先に手を出してしまったのだ。靴のつま先で男の子を蹴った。男の子は仕返しに頭を叩いてきた。


それが発展して、取っ組み合いの喧嘩になった。


大きい男の子の連れがそれを必死に止めて、男の子達は逃げて行った。その場にはあたしだけが残った。


腕や足には青い痣ができて、顔にはあちこち擦り傷ができていた。