あたしの心、人混みに塗れて

蒼ちゃんからは夜の10時前に電話がかかってきた。最初は出たくないと無視していたけど、引っ切りなしにかかってきたから、あたしが折れた。


「もしもし……」

『とも! どういうことだよ!!』


いつにない剣幕と大きい声に、あたしは思わずスマホを耳から離してしまった。このまま電話を切ってしまおうかと思ったくらいだ。


「ごめん、蒼ちゃん」

『ごめんって何? ちゃんと説明して』


明らかに怒っているとわかる声色だ。温厚な蒼ちゃんが怒るのはかなり珍しい。だからこそ余計に凄みもある。


「あたしは、そこまで弱くない」

『……どういうこと?』

「蒼ちゃんが守るべき人は、あたしじゃない」


そこまで言えば蒼ちゃんも理解したらしい。


『理央に何を吹き込まれたの?』

「吹き込まれたんじゃない。ただ、事実を聞いただけ」


そう、何も言われていない。あたしが勝手に決めたことだ。


『とも、理央に何を聞いたか知らないけど、俺はともしか好きじゃない』

「じゃあ、なんで鳴海さんを抱いてんの?」


自分のやっていることには目をつぶってあたしを好き? ふざけるな。


「蒼ちゃんは大事な人を作りすぎたんだよ。それは悪いことじゃないけど、あたしは許せない。どんな理由であれ、目の前で平気で浮気してる蒼ちゃんを見たくて付き合ったわけじゃない」


どんな理由であれ、これは浮気だ。仮に本当に蒼ちゃんの気持ちがあたしに向いているとしても、鳴海さんとそういう関係なのは事実だ。