「ねえ、相模さん」


それからしばらくして、授業が終わって帰ろうとして机から立ち去ろうとしたら、渡辺さんと日向さんに行く手を阻まれた。


「はい…………」


またか、とあたしは内心めんどくさくて仕方なかった。


ああ、渡辺さんが怖い目であたしを見てるよ。ただでさえその釣り目で見られると怖いのに、睨んでたら怖さ倍増ですよ。男もびびって逃げちゃいますよ。


日向さんはその後ろで穏やかな、でもあたしを逃がすまいと強い意思を持った瞳であたしを見ていた。


要するに、この二人に見られると超怖い。


「この間、聞いたのよ」

「はあ、何を……」


何がなんだかわからず目を瞬かせながら聞くと、渡辺さんは顔を真っ赤にした。


「何を、じゃないわよ! 川島くん、理央と別れたんだってね、その原因があなたってことよ!」


目の前で叫ばれるから、あたしはその威厳に片目をつぶりながらその声の大きさに鼓膜が破れるんじゃないかと心配した。


教室にはまだちらほらと人が残っていて、その人たちの視線を感じて嫌悪感を覚えた。


な、なるほど。この人、蒼ちゃんのセフレとグルだったのね。


理央って子と渡辺さんの好きな人が同じで仲良くなったか、それとも渡辺さんがセフレを応援しているだけなのか、そこらへんの謎は増えたけど。


てことは、日向さんはただの傍観者かな。うーん、そこらへんは説明してもらわないとわからない。


「な、なんでそんなこと……」


あたしは千晶に言われるまでセフレの存在を知らなかった。理央って子も当然あたしのことなんか知らないはずだ。そもそもあたしは大学で目立たないように生活しているのだから。