その少女に、名前は無かった。



 少女には父親も母親もいなかった。



 もちろん少女という個体が存在している以上、両親はいたはずだが、少なくとも少女は知らなかった。


 かわりに引き取られた家では末っ子の扱いで、分けられる食事も貧しいものであったから、少女は酷く痩せ細っていた。村自体貧しいものではあったが、その中でも少女は特に痩せていた。


 だが、村の住人は引き取った家族を責めはしなかった。


 ――少女が、赤い目を持っていたからだ。


 赤い目は不幸を司る者。赤い目の者は不幸を受けるべくして生まれる。皆が受ける不幸を代わりに受けるための存在なのだ――それは、村の言い伝えのようなものだった。


 言い伝えにしては出処は曖昧で、いつ誰が言い出したのかという以前にそのような記述や元となった伝承ら定かではない。
 それでも村全体で暗黙のルールとなったのは実際に少女以上に不幸な者はいなかったし、何より、自分より下の存在がいることに村人達は安堵していたのだ。


 だからある意味村人達は少女を"赤目"と呼んで蔑みながらも、決して殺しはしなかった。




 そんなある日、事件が起きた。