放課後。
プリントだかノートだかの提出忘れで呼び出しを食らって、予定外に帰るのが遅くなった。


雨花と別れてから勉強へのやる気も元通りに戻ってしまっていた。
まぁ……付き合ってる間も、口実でやる気を出してただけだからな。


なんて頭の中で一人ごちながら、自分の教室の前の廊下を通りかかった時だった。


「小西さんって意外とマニアックな本が好きなんだね~」


放課後だっていうのに教室から何やら楽しそうな話し声が聞こえて、何気なく視線をそちらに向けてみる。


そこに居たのは見覚えのある笑顔と、見たこと無い奴の笑顔。


図書委員が首からぶら下げてるカードホルダーを下げた男が、文庫本を持った雨花の向かいに座って笑い合ってる。


雨花の笑顔を久しぶりに見た気がする……。

少し前までは俺に向けられていた笑顔だ。
俺には見ることが出来なくなった笑顔が、別の奴に向けられている。


それは俺が自分の意志で手放したモノで、だから仕方ないってわかってるのに……モヤモヤを感じてしまうなんてどうかしてる。


こうして何とも言えない心情で立ち尽くしていた俺に、

「よう、憂梧」

背後から汰一が声をかけてきた。