「憂ちゃんってば、見た目軽そうなのに意外と純粋で、その上寂しがりだからちゃんとした彼女が出来るか心配してたの。だから、これからも仲良くしてあげてね、雨花ちゃん」


緊張する雨花も、止めるに止められない俺もそっちのけで。
まくし立てるような勢いで一息に告げると、雨花の両手を握ってにっこりと満面の笑みを浮かべていた。


「はいっ、わたしで良ければ!」


笑顔で返事を返した雨花に満足したのか。
それから姉貴はさっさと玄関に身を翻して、そのまま帰って行ってしまった……。
なんつーか……まるで台風だ。


10個上の姉貴は、昔から俺のことを何かと気にかけてくれていた。

忙しい母親の代わりに色々してくれるワケだけど……まさか、こんなことまでされるとは予想外で、恥ずかしくて居たたまれない。

……この間の雨花の気持ちがちょっとわかった気がする。



「……初めての彼女に浮かれてたな。なんか、ごめん」

「ウチの家族も同じだから。おあいこだね」

「ははっ、確かに」


この言葉で雨花も同じ事を思ったんだってわかって、思わず二人で笑ってしまう。


「突然過ぎて……わたしちゃんと挨拶出来てたかな」

「大丈夫。姉貴、喜でたし。気にしなくて良いって」


ほんの一瞬だけだったけど、姉貴には雨花が姉貴のいう、ちゃんとした彼女ってヤツに見えたらしい。


俺の答えで安心した表情を浮かべた雨花に、胸がちくりと痛む。


多分……もう会うことはないから。


正面の雨花の笑顔を見つめながら、頭の片隅で冷静な自分がこう呟いていた。