(え、あれ?なんで今溜息っていうか…すっごい嫌そうな顔で私のこと見てる。)

「あ、あの…えっと……何かいい案ありますか…?」


ちょっと釣り目なところがまた一段と鋭さを増している。
この時の私は蛇に睨まれたカエルのように心底萎縮していた。


「お前にはあるのかよ。」

「え?」

「だから、いい案ってのがお前にはあるのかって聞いてんの。」


声変わりを経てテノールボイスが刺々しく放たれた。


「えー…と、教室にお花を置くとかどうかな?」

「誰が世話するんだよ。」

「日直、かな?」

「高校生にもなって教室のお花替えを日直が喜んですると思ってんのか。」

「…喜びはしないだろうけど、でも…。」

「……チッ。」


この時私は思った。
顔立ちの良い人に限って性格が悪いと皐月が言っていたことを。


「…私がするもん。」

「へえ。」


怠そうに返事をする草野君は、もはや私を見てすらいなかった。
前の席、後ろの席…周りを見渡せば楽しそうに話をしている生徒たち。

そんな生徒たちの中、私たちの席だけは静まり返り孤立している気分になった。
周りみたいに話がしたいだけなのに。
これをきっかけにほかのクラスや学年の人と交流を持てたらもっと楽しくなると思っていたのに。

ふつふつと湧き上がる感情に、私は草野君の席へと身を乗り出して尋ねた。


「…あなたは、どうなんですか。」

「あ?教室に花だけは飾りたくない。」

「ぐ……。な、ならあなたの案を聞かせて。」


声をかけたからか、身を乗り出したからか…そんなものはどうでもいい。
頬杖ついて怠そうにしていてでも、こうして再度私に目を向けてくれることに必死になっていた。


「…ゴミ箱増やせばいいんじゃねぇの。」

「ゴミ箱を?…そ、それだけ?」

「案を出すのにそれだけもどれだけもねーだろ。お前さ…」


ここから先のことはほとんど覚えていない。
お前さ、の後に続いた言葉は大体のところ校内を見てなさすぎだとか
美化委員になったのなら自覚を持てとか、その他私の案を否定する言葉をつらつらと並べてくれた。

惨敗した私はというと、鼻を鳴らして蹴散らす草野君相手に恐怖でいっぱいだった。
もちろん、発表の際は草野君が草野君の案のみを発表し会議は終了した。



何度思い返しても第一印象はイケメンの心はブス。草野君に限り。
今後委員会の時は極力避けようと私はこの時確かに誓ったのだけれど…




「………はぁ。」


翌週、案を出した中に”美化委員による清掃活動”が実行されることとなり、
めでたく草野君のクラスとペアになった私は校舎裏で再開した。


これが、私と草野君との出会い。


苦手だった草野君に恋に落ちるのは、もう少し先の話になります。