一元は八戸のことを思うと頭に来る。会う度に挑発してからかう。八戸に会いたくないが、同窓会だからしょうがない。彼女だけを除外することができない。小学校低学年の時に八戸と仲がよかった時期があったような気がする。はっきりと覚えていない。いつころから仲が悪くなったのかも記憶にない。八戸を頭の中から追い払おうとすると、かえって八戸に頭を支配されてしまう。一元は考えないことにした。
「一元さん、お電話です」隣りのデスクの女子職員上原絵美が受話器の送話口を手で押さえながら言った。
上原は今年区役所の職員になった新人。一元に気があって、言外にほのめかすが、効果がない。一元はいつも気がつかないふりをする。
「一元です」一元は受話器を取って言った。
「佐藤です」
「おぉー、元気」
「まあまあなんとかやっています。ところで来週の日曜日に長田先生の家に遊びに行くけど、一緒に来ないか」
「長田先生の家!会いたいね」一元は小学校を卒業してから長田先生に二、三回しか会っていない。最後に会ったのは五、六年前。久しぶりに会いたい。
「小学校一年生の時のタイムカプセルのことを覚えている?」
「覚えている」
「なにを書いた」
「それは覚えていない。大昔のことだもん」
「俺も覚えていない。知りたくない?」
「そう言われると知りたくなった」一元は急に好奇心に襲われた。
「俺も覚えていない。俺も知りたくなった。先生の家へ行って書いたものを見る」
「突然そのことを思い出した?」一元は一所懸命に自分の夢を書いたことは覚えているが、タイムカプセルのことは時の流れとともに忘れてしまった。なんの脈略もなく突然佐藤がそのことを言い出した。一元は不思議に思う。
「そうじゃない。八戸がそのことを突然思い出して、知りたくなった。幹事になって動いている」
「八戸!彼女はいつも突然変なことを思い出すからな。変な女。あまり行きたくないな」
「どうして」
「彼女には会いたくない」
「八戸に会いに行くのではない。俺たちはタイムカプセルを見に行く」
「来るから行きたくない」
「先生に会いに行く、と思えばいいだろう」
「あまり行く気にならないな」
「八戸から逃げちゃだめよ」
「別に逃げてないけど」
「一元が来なければ、八戸の勝ちになる」佐藤は一元の対抗心を煽ることにした。一元と八戸はいつもお互いに譲らず対立し、いがみ合う。どちらも負けたくない。二人の漫才のような掛け合いは同窓会の必見シーンとなった。どちらかが欠席しても雰囲気が寂しい。
「勝ち負けの問題ではないだろう」佐藤の手口をよく知っているが、一元はいつも彼の口舌にうまく乗せられてしまう。
「一元が欠席すれば皆そう思う」
「三人だけで行く?」
「十人ぐらいと思う」
「いいよ。行く」自分が行っても行かなくても皆に言われることは一元はよく知っている。どうせ言われるなら行ったほうがいい。それに好奇心をくすぐられた。一年生の時になにを書いたのかを知りたい。十人ぐらい行けば八戸を避けることができる。避けても挑発してくるけど。
「一元さん、お電話です」隣りのデスクの女子職員上原絵美が受話器の送話口を手で押さえながら言った。
上原は今年区役所の職員になった新人。一元に気があって、言外にほのめかすが、効果がない。一元はいつも気がつかないふりをする。
「一元です」一元は受話器を取って言った。
「佐藤です」
「おぉー、元気」
「まあまあなんとかやっています。ところで来週の日曜日に長田先生の家に遊びに行くけど、一緒に来ないか」
「長田先生の家!会いたいね」一元は小学校を卒業してから長田先生に二、三回しか会っていない。最後に会ったのは五、六年前。久しぶりに会いたい。
「小学校一年生の時のタイムカプセルのことを覚えている?」
「覚えている」
「なにを書いた」
「それは覚えていない。大昔のことだもん」
「俺も覚えていない。知りたくない?」
「そう言われると知りたくなった」一元は急に好奇心に襲われた。
「俺も覚えていない。俺も知りたくなった。先生の家へ行って書いたものを見る」
「突然そのことを思い出した?」一元は一所懸命に自分の夢を書いたことは覚えているが、タイムカプセルのことは時の流れとともに忘れてしまった。なんの脈略もなく突然佐藤がそのことを言い出した。一元は不思議に思う。
「そうじゃない。八戸がそのことを突然思い出して、知りたくなった。幹事になって動いている」
「八戸!彼女はいつも突然変なことを思い出すからな。変な女。あまり行きたくないな」
「どうして」
「彼女には会いたくない」
「八戸に会いに行くのではない。俺たちはタイムカプセルを見に行く」
「来るから行きたくない」
「先生に会いに行く、と思えばいいだろう」
「あまり行く気にならないな」
「八戸から逃げちゃだめよ」
「別に逃げてないけど」
「一元が来なければ、八戸の勝ちになる」佐藤は一元の対抗心を煽ることにした。一元と八戸はいつもお互いに譲らず対立し、いがみ合う。どちらも負けたくない。二人の漫才のような掛け合いは同窓会の必見シーンとなった。どちらかが欠席しても雰囲気が寂しい。
「勝ち負けの問題ではないだろう」佐藤の手口をよく知っているが、一元はいつも彼の口舌にうまく乗せられてしまう。
「一元が欠席すれば皆そう思う」
「三人だけで行く?」
「十人ぐらいと思う」
「いいよ。行く」自分が行っても行かなくても皆に言われることは一元はよく知っている。どうせ言われるなら行ったほうがいい。それに好奇心をくすぐられた。一年生の時になにを書いたのかを知りたい。十人ぐらい行けば八戸を避けることができる。避けても挑発してくるけど。
