最近の映画は技術がもの凄く進んでいるため、迫真の映像が多いが、内容が今一。アクション映画はコンピューター・グラフィックも使って、迫力満点だけど、内容重視の人にとっては迫力だけでは物足りない。特にハリウッド映画は最後にわいわい騒いで終わるところは浅はかにも見える、と映画を見た後に藤堂がそう思った。
播本も映画ファン。藤堂といっしょに映画を見る時はいつも藤堂が映画を決める。播本はなにを見ても面白い。好き嫌いがない。映画であればよい。藤堂はレベルが低い映画だ、と思っても播本は興味津々に見る。播本と同じように映画を見られたら、さぞかし楽しいでしょう、と藤堂がいつも感心させられる。
映画館を出た後、播本は近くの高級イタリアン・レストランに藤堂を連れていった。予約したようで、二人の席は準備してあった。シンプルに装飾してあるレストランは返って高級感を醸し出す。
藤堂は播本が注文したワインを啜りながら、播本を秘かに評価している。証券会社に勤めている播本は背が高くて、格好いい。有名な大学を出て、収入もいい。一昔前風に言えば、三高。播本は自分にもやさしいし、いい旦那になれそうだが、自分はどうして踏みきれないのでしょうか、と藤堂も腑に落ちない。
「映画はおもしろかったですか」播本が熱い眼差しを藤堂に向けた。
「 。 。 。 はい」我に返った藤堂は慌てて答えた。
「よかった。またいっしょに行きましょうよ。毎週行きましょう」播本が意味ありげに言った。
「映画は大好きです」藤堂が言葉を濁らした。播本は本命候補の一人だが、あまり誤解を招くようなことは言いたくない。
「今日の料理は遅いね」播本がイライラしたようにキッチンに目を投げた。
「もうすぐ来るじゃないですか」映画を見る時に、スナックを食べた藤堂はそれほどお腹が空いていない。いまはむしろワインを吟味したい。
「料理が遅いから先に見せます」播本は内ポケットからパンフレットを出して、藤堂の前に置いた。「これはどうですか」
藤堂は播本が手を内ポケットに入れた時、プロポーズ用の指輪を出すのではないか、とどきっとした。パンフレットを見て胸を撫で下ろした。まだ気持ちが定まらない時に一生を決めることを聞かれたくない。
パンフレットには四泊五日のグアムの旅行を含め、いろんなパッケジが並べてある。
「来月の連休にいっしょに行きませんか」播本が身を乗り出して言った。
「連休ですか」藤堂が思考を巡らしている。藤堂も旅行に行きたい。播本といっしょに四泊五日の旅行の意味を考えると、躊躇してしまう。
「行きましょうよ」躊躇っている藤堂に播本がもう一押しをした。
「行きたいけど、連休はお母さんと温泉へ行くことにしたの」藤堂は親の存在に感謝している。こういう時に切札として使える。
「そうですか」播本が肩を落とした。
「私が大分前に温泉に連れていくと約束したから、できないわ」大義名分があって、藤堂が簡単に播本の申込みを断られる。
「なんとかなりません」必勝のつもりで来た播本は完封負けしたくない。なんとか得点をしたい。
「ご免なさいね。また誘ってください」播本の落胆ぶりを見て、藤堂は思わず同情の念が起きた。
誠意を持って付き合ってくれる人には、やっぱり真心を持って付きあって上げないと可哀想、と実感した。さすがに人生の先輩であって、お母さんの言うことは正しい。しかし、早く最終選考をしなければ、と知っていながら、播本と黒田は甲乙をつけがたい。どっちも選びたいし、どっちも捨てがたい。藤堂はなかなか踏みきれない。
「私はお母さんと藤堂さんの温泉旅行にいっしょに行きたい」播本がいきなり突飛なことを言い出した。
「へェ!」藤堂が青くなった。実際に旅行の予定があるわけではない。来られたら困る。家に帰ったら、お母さんに嘘がばれないように協力してもらわなければならない、と秘かに思った。
「冗談ですよ」藤堂の慌てぶりを見て、播本が笑った。藤堂のお母さんと旅行に行くつもりがない。いっしょに行けば、お互いに気を使うだけで、楽しいはずがない。
「私は別にかまわないけど、お母さんは知らない人と行く気がない、と思います」播本の冗談だと、知った藤堂はほっとした。
「また企画しましから、今度いっしょに行きましょうよ」播本は将来につながる得点がほしい。
藤堂が曖昧な微笑みを浮かべて、頷いた。逃げ道を断たれないためには、はっきりと答えないほうがいい、と思った。
期待していた通りの結果にはならなかったが、播本は諦めていない。これからも誘う、と決意を新たにした。
「播本さんはどの映画スターがすきですか」藤堂が話題を変えた。
「たくさんいます。キアヌ・リブス、トム・クルズ。藤堂さんは?」好きな映画の話しになると、播本の顔は輝いていた。
藤堂は映画が好きだけど、格好いいスターよりも演技派の俳優が好き。映画の話しが弾んで、旅行の誘いは断ったが、楽しい食事ができて、藤堂は胸を撫で下ろした。
ホンコンのコックが作った飲茶の点心はさすがにうまい。シュウマイも牛肉玉も大根餅も美味しい。藤堂はテーブルの上に並べてある十種類ぐらいの小鉢に舌鼓を打っている。小鉢だけでお腹が一杯になりそう。料理を取る必要がない。
「美味しい」エビシュウマイを口に入れた藤堂は満足そうな顔をした。
「美味しいでしょう」美味しそうに食べる藤堂を見て、黒田は喜びを覚えた。
「黒田さんはよくこのお店に来るのですか」藤堂は学生時代によく新宿に遊びに来た。新宿二丁目に近いところにある新宿大飯店は行動範囲内ではなかった。
「よく来ます」黒田は友達に連れて来られてから、常連になった。
「お母さんを連れてきたいわ」藤堂は時々出不精なお母さんを連れて食事に行く。
「今度お母さんといっしょに来てください」黒田はそろそろ藤堂のお母さんに会っていい印象を与える時が来た、と見ている。
「ありがとう。誘って見るわ」藤堂は曖昧な返事をした。誘うだけだから、連れてくる約束したわけではない。
「ところで藤堂さんは今度の連休に予定はありますか」黒田の目が期待に満ちている。
「はあ、どうしてですか」藤堂が自分の前の皿から顔を上げて黒田を見た。
「いっしょにグアム旅行に行きませんか」黒田が内ポケットからパンフレットを出して見せた。
「グアム旅行!」この前の経験から黒田の意図を察しできる藤堂はオーバーに言った。
「はい。折角だからいっしょに旅行をしょうか、と思って」黒田が熱のこもった口調で言った。
「ご免なさい。もうお母さんと温泉旅行に行く約束をしましたの」藤堂が申し訳なさそうな顔をした。この前の播本の経験があるから、もう慌てないが、いつも自分を大事にしてくれる黒田に悪い、と痛感した。やっぱり早く最終選考したほうがいいかもしれない。
「そうですか」黒田ががっくりした。
「ご免なさい。また誘ってください」藤堂が落胆している黒田に希望を与えた。
「あァ」黒田が突然閃いたような顔をした。「私がいっしょに行ってもいいですか」
「へェ、私たちといっしょにですか」藤堂が面食らってぽかんとした。
「はい。旅行は人が多いほうが楽しいじゃないですか」黒田が含み笑いをした。
「そうでしょうけど。お母さんは人見知りするタイプなの。聞いて見ないと分からないわ」藤堂がまたもお母さんを理由に断ろうとした。
「じゃあ、お母さんに聞いてください」藤堂の微妙なニュアンスを読み取れなかった黒田は行きたい一心でいる。
「聞いて見るわ」藤堂は鈍感な黒田に呆れていた。
「いっしょに行けたらいいな。どうぞ召し上がってください」黒田が藤堂の皿に料理を入れた。
黒田と播本のような男は仕事はできるかもしれないが、意外と単細胞かもれしない。二人とも同じことを考えて、同じ時期に提言した。同じ時にプロポーズかもしれない、と思う、と藤堂が眉を顰めた。
播本も映画ファン。藤堂といっしょに映画を見る時はいつも藤堂が映画を決める。播本はなにを見ても面白い。好き嫌いがない。映画であればよい。藤堂はレベルが低い映画だ、と思っても播本は興味津々に見る。播本と同じように映画を見られたら、さぞかし楽しいでしょう、と藤堂がいつも感心させられる。
映画館を出た後、播本は近くの高級イタリアン・レストランに藤堂を連れていった。予約したようで、二人の席は準備してあった。シンプルに装飾してあるレストランは返って高級感を醸し出す。
藤堂は播本が注文したワインを啜りながら、播本を秘かに評価している。証券会社に勤めている播本は背が高くて、格好いい。有名な大学を出て、収入もいい。一昔前風に言えば、三高。播本は自分にもやさしいし、いい旦那になれそうだが、自分はどうして踏みきれないのでしょうか、と藤堂も腑に落ちない。
「映画はおもしろかったですか」播本が熱い眼差しを藤堂に向けた。
「 。 。 。 はい」我に返った藤堂は慌てて答えた。
「よかった。またいっしょに行きましょうよ。毎週行きましょう」播本が意味ありげに言った。
「映画は大好きです」藤堂が言葉を濁らした。播本は本命候補の一人だが、あまり誤解を招くようなことは言いたくない。
「今日の料理は遅いね」播本がイライラしたようにキッチンに目を投げた。
「もうすぐ来るじゃないですか」映画を見る時に、スナックを食べた藤堂はそれほどお腹が空いていない。いまはむしろワインを吟味したい。
「料理が遅いから先に見せます」播本は内ポケットからパンフレットを出して、藤堂の前に置いた。「これはどうですか」
藤堂は播本が手を内ポケットに入れた時、プロポーズ用の指輪を出すのではないか、とどきっとした。パンフレットを見て胸を撫で下ろした。まだ気持ちが定まらない時に一生を決めることを聞かれたくない。
パンフレットには四泊五日のグアムの旅行を含め、いろんなパッケジが並べてある。
「来月の連休にいっしょに行きませんか」播本が身を乗り出して言った。
「連休ですか」藤堂が思考を巡らしている。藤堂も旅行に行きたい。播本といっしょに四泊五日の旅行の意味を考えると、躊躇してしまう。
「行きましょうよ」躊躇っている藤堂に播本がもう一押しをした。
「行きたいけど、連休はお母さんと温泉へ行くことにしたの」藤堂は親の存在に感謝している。こういう時に切札として使える。
「そうですか」播本が肩を落とした。
「私が大分前に温泉に連れていくと約束したから、できないわ」大義名分があって、藤堂が簡単に播本の申込みを断られる。
「なんとかなりません」必勝のつもりで来た播本は完封負けしたくない。なんとか得点をしたい。
「ご免なさいね。また誘ってください」播本の落胆ぶりを見て、藤堂は思わず同情の念が起きた。
誠意を持って付き合ってくれる人には、やっぱり真心を持って付きあって上げないと可哀想、と実感した。さすがに人生の先輩であって、お母さんの言うことは正しい。しかし、早く最終選考をしなければ、と知っていながら、播本と黒田は甲乙をつけがたい。どっちも選びたいし、どっちも捨てがたい。藤堂はなかなか踏みきれない。
「私はお母さんと藤堂さんの温泉旅行にいっしょに行きたい」播本がいきなり突飛なことを言い出した。
「へェ!」藤堂が青くなった。実際に旅行の予定があるわけではない。来られたら困る。家に帰ったら、お母さんに嘘がばれないように協力してもらわなければならない、と秘かに思った。
「冗談ですよ」藤堂の慌てぶりを見て、播本が笑った。藤堂のお母さんと旅行に行くつもりがない。いっしょに行けば、お互いに気を使うだけで、楽しいはずがない。
「私は別にかまわないけど、お母さんは知らない人と行く気がない、と思います」播本の冗談だと、知った藤堂はほっとした。
「また企画しましから、今度いっしょに行きましょうよ」播本は将来につながる得点がほしい。
藤堂が曖昧な微笑みを浮かべて、頷いた。逃げ道を断たれないためには、はっきりと答えないほうがいい、と思った。
期待していた通りの結果にはならなかったが、播本は諦めていない。これからも誘う、と決意を新たにした。
「播本さんはどの映画スターがすきですか」藤堂が話題を変えた。
「たくさんいます。キアヌ・リブス、トム・クルズ。藤堂さんは?」好きな映画の話しになると、播本の顔は輝いていた。
藤堂は映画が好きだけど、格好いいスターよりも演技派の俳優が好き。映画の話しが弾んで、旅行の誘いは断ったが、楽しい食事ができて、藤堂は胸を撫で下ろした。
ホンコンのコックが作った飲茶の点心はさすがにうまい。シュウマイも牛肉玉も大根餅も美味しい。藤堂はテーブルの上に並べてある十種類ぐらいの小鉢に舌鼓を打っている。小鉢だけでお腹が一杯になりそう。料理を取る必要がない。
「美味しい」エビシュウマイを口に入れた藤堂は満足そうな顔をした。
「美味しいでしょう」美味しそうに食べる藤堂を見て、黒田は喜びを覚えた。
「黒田さんはよくこのお店に来るのですか」藤堂は学生時代によく新宿に遊びに来た。新宿二丁目に近いところにある新宿大飯店は行動範囲内ではなかった。
「よく来ます」黒田は友達に連れて来られてから、常連になった。
「お母さんを連れてきたいわ」藤堂は時々出不精なお母さんを連れて食事に行く。
「今度お母さんといっしょに来てください」黒田はそろそろ藤堂のお母さんに会っていい印象を与える時が来た、と見ている。
「ありがとう。誘って見るわ」藤堂は曖昧な返事をした。誘うだけだから、連れてくる約束したわけではない。
「ところで藤堂さんは今度の連休に予定はありますか」黒田の目が期待に満ちている。
「はあ、どうしてですか」藤堂が自分の前の皿から顔を上げて黒田を見た。
「いっしょにグアム旅行に行きませんか」黒田が内ポケットからパンフレットを出して見せた。
「グアム旅行!」この前の経験から黒田の意図を察しできる藤堂はオーバーに言った。
「はい。折角だからいっしょに旅行をしょうか、と思って」黒田が熱のこもった口調で言った。
「ご免なさい。もうお母さんと温泉旅行に行く約束をしましたの」藤堂が申し訳なさそうな顔をした。この前の播本の経験があるから、もう慌てないが、いつも自分を大事にしてくれる黒田に悪い、と痛感した。やっぱり早く最終選考したほうがいいかもしれない。
「そうですか」黒田ががっくりした。
「ご免なさい。また誘ってください」藤堂が落胆している黒田に希望を与えた。
「あァ」黒田が突然閃いたような顔をした。「私がいっしょに行ってもいいですか」
「へェ、私たちといっしょにですか」藤堂が面食らってぽかんとした。
「はい。旅行は人が多いほうが楽しいじゃないですか」黒田が含み笑いをした。
「そうでしょうけど。お母さんは人見知りするタイプなの。聞いて見ないと分からないわ」藤堂がまたもお母さんを理由に断ろうとした。
「じゃあ、お母さんに聞いてください」藤堂の微妙なニュアンスを読み取れなかった黒田は行きたい一心でいる。
「聞いて見るわ」藤堂は鈍感な黒田に呆れていた。
「いっしょに行けたらいいな。どうぞ召し上がってください」黒田が藤堂の皿に料理を入れた。
黒田と播本のような男は仕事はできるかもしれないが、意外と単細胞かもれしない。二人とも同じことを考えて、同じ時期に提言した。同じ時にプロポーズかもしれない、と思う、と藤堂が眉を顰めた。
