301号室、302号室、303号室





青い顔をして呆然と立ち尽くす僕を、布団から半分顔を出した彼女が、黙って見ている。

ほんと、なんなんだ・・・
この女・・・



「寒くないの?」



彼女は下着姿の僕に、そう訊ねた。
そりゃ、寒いに決まってる。
頭だって痛いし、早いとこもう一眠りしたい。

・・・・けど、


いや、


でもやっぱり・・・・



「・・・さむいです」



限界だった。
普段なら絶対にそんなことないのに、今日に限ってなぜか下着一枚だし。

冷たいフローリングに立つ素足から、徐々に体温が奪われていく。




「じゃあ、一緒にもう一回、寝ようよ」



彼女は笑った。

・・・・はい?

目をぱちくりさせる僕の手首を、彼女の細い指が掴む。

考える間もなく、彼女に手を引かれるまま、同じベットの中へ。


なんだこれなんだこれなんだこれ


彼女との距離が、さっきよりぐっと近付く。
呼吸を感じられるほどの、至近距離。
それも、裸同然の姿でここまでくっつかれたら、目のやり場と、手のやり場に困る。

彼女の身体からほのかに香るのは、嗅ぎ慣れない香水の、甘い匂い。

今度は、急激に体温が上がっていく。



「何いまさら照れてるの?昨日の夜、散々めちゃくちゃにしてくれたくせにさ」


「・・・え!?そ、そうなんですか?」



僕が、彼女を、めちゃくちゃに・・・!?
ただでさえ、凡人の僕なんかとこうして話してるだけでも奇跡と思うくらいの美人なのに・・・

そんな彼女のことを、

僕、

めちゃくちゃにしたんですか!?

あ、めちゃくちゃの意味くらい、男だし、分かっているつもりだ。

それって・・つまり・・・・

あれだろ・・・・?


・・・・うわ、

ついにやってしまったか・・・


一人で想像し、落ち込んでいると、ようやく彼女が口を開いた。





「・・・・もしかして、覚えてないの?」



あれ・・・

なんだろう、この、罪悪感。


彼女が、少し寂しそうな顔をしたからだろうか・・・



「まぁ、仕方ないよね!昨日、すごい、酔ってたし!」



すぐ、誤魔化すように笑う。

でも、彼女はどうやら、作り笑いが下手なようだ。

ただでさえ女ばかりの家庭で育ったお陰で、女性の一挙手一投足には人一倍敏感な僕だ。
これくらいのこと、見抜けない筈がない。



「あの」


「ん?なに?」


「昨日の夜のこと、教えてくれませんか?思い出すかもしれないんで・・・」



少しでも思い出せたら、この罪悪感も、消えてくれるだろうか。