「中村さん、俺のこと、好きですか?」
耳元で聞こえた三木くんの声に、胸がきゅうっと締め付けられる。
また、そんな声を出して、私の心を揺さぶって・・・
「そんなふうにされたら、好きになるって」
私も、何だかんだで普通の女子だったみたいだ。
彼の思惑通り、落とされた。
「俺も、好きです。」
ドクン・・・
そんな分かりきってること、今さら言うなんて、やっぱり、三木くんはずるいよ・・・。
分かりきってるはずなのに、改めて、ストレートに言われると、なんか、夢みたいだ・・・。
「今から、どこか行きませんか?」
「今から、って・・・?」
「今日、クリスマスイブですよ?」
そっか、クリスマスイブに私は、ほぼ初めて喋った彼と、こんなことになったのか。
そう考えると、何から何まで、おかしな話だ。
時計を見ると、時刻は14時を回っていた。
あと三時間もすれば、亮太は帰ってきてしまう。
「どこか、できるだけ遠くに行きたいな」
「じゃあ、そろそろ準備、しますか」
両手に挟んだお皿の中のリゾットは、すっかり冷めてしまったようだ。
半ば、忘れかけていた。
強く、フチを握っていたせいで、手のひらには汗が滲んでいる。
食べるの遅いとからかわれながら、なんとか完食し、最近奮発して買ったワンピースに着替えた。
クリスマスにもしデートができるなら、と思って念のため購入しておいたものだ。
デートの相手は、まあ、予想外の人になってしまったわけだけど。
彼に腕を掴まれて、六畳の狭いアパートから、クリスマスの街へと飛び出す。
私たちは、まだ、今しか見えていない。
まるで、今から銀行を襲撃しに行く銀行強盗のような、不安と期待と、欲望に満ちている。
私たちは、同じ罪を犯した、共犯者だ。
今なら、彼となら、誰も私たちを見つけられないくらい遠くへ、行ける気がした。
今日は、最低で最高の、クリスマスイブになりそうだ。

