「お嬢様。朝食の用意が出来ております。」

今日もお世話係の声と共に訪れる朝。
大きな窓から眩しすぎるくらいの光が漏れる。

所々がレースで飾られた白いダブルベッドから身体を起こし、
朝食が用意されている大広間へと向かう。

「おはようございます、お嬢様。」

綺麗に整列した5人の専属コックとお世話係が
大きな声と共にお辞儀を揃える。

「…おはよう!!」

今日も、
その声と礼儀正しすぎるお辞儀の迫力に
苦笑いだ。

私は中川柚梨。(Yuri Nakagawa)
高校1年生。15歳。

大手家具メーカー「N.interior」代表取締役
中川政志(Masashi Nakagawa)と
有名ティーンブランド「Cute Style」デザイナー
中川瞳(Hitomi Nakagawa)の間に産まれた
一人娘。

両親共に多忙なため、自宅にはいつも
お世話係と専属コックしかいない。

って言っても私が小学生の頃までは
とてもじゃないけどこんな裕福な家庭ではなくて。
私の生活が一変したのは中3の夏。

優しく、面倒見の良いオシャレなお母さん。
面白くてお調子者のお父さん。
お金はなかったけど家族3人で笑いあって、
幸せに暮らしてた。

いつものように自宅のボロアパートで
お母さんと二人で夕食を食べながらお父さんの帰りを待っていたとき。

バタン!!!!

荒々しく、慌てた様子でドアを閉めるお父さん。

「瞳!!!!柚梨!!!!やったぞぉぉぉ!!!!」

部屋に入ってくるなり、そんな雄叫びをあげたお父さんを
お母さんと私は呆れた目で見ていた。

「N.interiorがHPO法人プラチナ家具大賞を受賞したんだよ!!!!」

N.interiorはお父さんが社長を務める家具メーカー。
家具と関わる仕事に就くのが幼い頃からの夢だったらしいお父さんは、
貧しいながらも家具メーカーを立ち上げ、
日々奮闘していたのだ。

「嘘でしょ!?プラチナ家具大賞って…!!」

お母さんは、あまりの驚きに言葉を失う。

「画期的で今までに無いようなデザインが決め手だって!!
今まで頑張ってきて良かったな!!!!」

そう言ってお父さんは、私とお母さんを抱きしめる。

そうして、N.interiorは全国展開していき、
「世界一の家具メーカー」
とまで呼ばれるようになったのだ。

やがて、金銭的に余裕の出来たお母さんは
幼い頃からの夢だった、デザイナーになるため、
ブランドを立ち上げ
デザイナーとして世界で活躍するようになった。

家に帰っても誰もいない状況が何回もあった。
それでも私は、お母さんとお父さんの活躍をテレビで見るたび、笑みが溢れた。
寂しいと思う日もあったけど、
3日に1度くらい、帰ってきた日は
お父さんもお母さんも

「寂しい思いさせてごめんね」

そう言って抱きしめてくれた。

そんな生活が4ヶ月ちょっと続いたある日。
珍しく朝からお父さんとお母さんが揃って
朝食を食べていた。

「柚梨?おはよう!」

寝室から姿を現した私に向けて、
お母さんとお父さんは声を揃える。

「珍しいね、二人揃ってどうしたの?」

お母さんの隣の椅子に座り、首をかしげる。

「お母さんもお父さんも毎日忙しくて…
いつも一人にしちゃってごめんな。」

お父さんが真剣な顔をして言う。

「それでね、お母さんとお父さんから、プレゼントがあるの。
…これ。」

お母さんはそう言うと、
私の手のひらに金の鍵を渡した。

「なにこれ?」

私はその鍵をつまみ、不思議そうにお母さんを見つめる。

「このアパートは引き払うことにしたから。
今日から柚梨は、夢の一軒家住まいだ!!
専属コックとお世話係付きだぞ?」

お父さんが、キラキラとした目で私を見る。

「お父さんとお母さんは今まで通り、
たまにしか帰れないと思うけど…。
セキュリティーがしっかりしてる家の方が
柚梨ちゃんも安心だものね」

お母さんは、ニコッと微笑む。

「…は?」

こうして。
両親共に過保護で、私を溺愛するがために、
厳重なセキュリティーとロックが備え付けられているこの豪邸を
私のために
なんと、数億円かけて建設したそうなのです。