ばけもの

｢ばか｣
｢いつでも逃げられたでしょう｣
｢本当は、逃げられたんでしょう｣
｢あなたは、そうしてずっと逃げていたんだから｣
｢なんで今回は逃げなかったのよ｣
｢私は殺されにあそこに行ったのに｣
｢あなたに殺されにあそこに行ったのに｣
｢あなたはいつまでもあそこにいて｣
｢私はいつまでも殺されないで｣
｢私はばかみたいに話だけして｣
｢いつもみたいにあそこに行ったらあなたはいないし｣
｢あなたはここにいるし｣
｢本当、あなたってばかじゃないの｣

晒されている首に話しかけるのは優しい声。
家族を猟奇殺人犯に殺された哀れな少女。
ばけものと呼ばれた彼に話しかけ続けた少女。
少女は望みを叶えて、いつも話を聞いてくれていた優しい友人を失った。
少女は幸か不幸か、それは誰にも決められないこと。
少女自身にも決められないこと。