――最期に声の姿を見たかった。


そう思って、ばけものは人間に殺された。
ばけものがそうしたように。
首をはねて。
ばけものは最期まで怖くなかった。
空虚な世界を声が満たしてくれたから。
最期まで後悔はしなかったけれど。
誰でも良かったんだから、声の大切なものを壊さなくても良かったかなあ、とは思った。
声の大切なものはわからなかった。
考えたけど。
どれかわからなかった。
ただ、壊しただけだったから。
思い出したかったけど。
今日になってしまったから。
でもばけものは幸せだった。
声は望んだから。
声の大切なものを奪ったものを許さないと。
そのものがいなくなることが望みだと。
その望みはばけものには叶えられなかったから。
ては動かない。
噛みきれる舌もない。
それがばけものの不幸だった。
でも、ばけものは声の望みを叶えた。
恩を返した。
ばけものは、幸せだった。