12月14日

今、マユりんの家でこれを書いている。

昨日、岡野さんに相談に乗ってもらってマンションを引き払った。
携帯も新しくした。
こういうときは、ひとまず逃げるに限ると岡野さんは言った。
まず住所は知られているから、あの男の知らないところへしばらく身を潜め、
携帯も新しくすること。
ただし、今まで使っていた携帯も解約せずにしばらくは持っておくこと。
解約してしまうと、逃げたことが感づかれやすいのだという。
まあ、時間の問題だとは思うが。
要はあの男が私が逃げたことに気づき、本格的に捜索をはじめるまでに、その手の届かないところまで逃げてしまっていればいいのだ。
いわば、単なる時間稼ぎだ。

こういうとき、そばに誰かがいてくれるというのは、とても支えになる。
おかげでだいぶ落ち着いてきた。
あの時、マユりんが偶然家に来てくれなかったら、私は多分、本当に彼を殺していただろう。
そうでなければ、自殺していただろう。
それくらいに混乱していた。まだ二日しか経っていないのに、あのときのことをよく思い出せない。
去年の事件は、いまだにありありと思い出すことが出来るのに、不思議だ。

私を押し倒した、見知らぬ人の顔。胸を強く揉む硬い手。私の口を塞ごうとする粘り気のある口。体に悪い薬物のような、腐った野菜のような、中年男性の匂い。

未だに全て思い出せる。
あの時、私を助けてくれたのが、あの男だった。
私はお礼のつもりで一度だけ食事をご馳走し、
デートをし、擬似恋愛みたいな夜を共にした。
ただそれだけのはずだった。
まさかこんなことになろうとは。