ミドリが消えてしまう。

僕は、頭の中が真っ白になった。

はじめて会った時、何て美しい人だろうと思った。
でもそれはけして恋なんかじゃなかったと思う。
僕はまだ出版社に入りたての新人編集者だったし、彼女はうちの出版社の新人賞作家だったから。
住んでいる世界があまりにも違いすぎたから。
ミドリはとても鋭い目をしていた。
絶え間なく光を放っているような、とにかく目に力のある女性だった。
それは、かつて彼女が見知らぬ男性に暴行を受けた事件のせいでもあったのだけど。

僕はその目で捉えた世界を具現化する彼女のひたむきな文章が好きだった。
彼女のデビュー作でもあり新人賞受賞作でもある小説は、僕の人生を大きく変えた。
「五十億光年の星空」というタイトルのそれは、僕のバイブルとなった。

去年、二人の関係が恋人同士に変わってからもそれは変わらなかった。

僕はミドリのことを考えた。
ミドリは消えない。
僕がそうはさせない。
「光はただひたむきに前だけを見据え、何も恐れるものがないかのように進むもの」
ミドリの文章だ。

僕はミドリだけを見ていよう。
僕はミドリのための、光になろう。