2005/12/21(水)

マンションの前で待つこと五時間。
東の空が白く明るみだした頃に、水商売風の女がやってきて、玄関のロックにキーを差し込んだ。
僕はその女が自動ドアをくぐった隙に、マンションに滑り込んだ。
女は僕を新聞配達のバイトか何かだと思ったらしく、軽く会釈した。

階段で五階へ。
吹き抜けを回り込んだ一番奥、505号室へと急いだ。
「早乙女」と書かれたステンレスのプレートが朝日を反射し、鈍く光っている。
ここに間違いなかった。
この部屋にミドリは居る。
僕はかじかんだ手でインターフォンを押した。

待つこと数分。
明らかに寝起きと思われる女性が、ドアの向こうから顔をのぞかせた。
長い髪を頭のてっぺんで雑にまとめ、パジャマ代わりのジャージはだらしなく乱れ、化粧なんてもちろんしてはいなかったけど、その女性は驚くほどに美人だった。
彼女は寝ぼけ眼で、疑いの目を僕に向けている。
僕はここに至るまでの経緯を手短に話し、ミドリがここに来ていないかと尋ねると、
彼女は、そんな人は知らないと言った。
僕はもしかしたらミドリは普段は偽名を使っているのかもしれないと思い、
定期入れに挟んであるミドリの写真を見せた。
今年の夏、ミドリの誕生日にとった写真だ。
ケーキの前で子供みたいに笑うミドリが写っていた。
その写真を見ると、彼女は短く悲鳴をあげ、
僕の顔を、まるで化け物を見るかのような目で見回した。
「あなた、ミドリとどういう関係なの?」彼女は言った。
「恋人です」僕は、出来るだけはっきりと答えた。
「もう何日も連絡が取れなくて困ってるんです。ある人から、ここにいるって聞かされて」
彼女はもう一回恐る恐る写真に目を落とし、それからまた僕を見た。
「この写真、本当にミドリなんですか?」
「そうです」
彼女はちょっと泣きそうな顔をした。
「でもここにはいません。ミドリとは、もう一年以上会ってませんから」