それは、綺麗事なんかじゃない。
いつかは治る体の傷よりも、心の傷を恐れただけ。
「翔吾…」
もしも、このまま死んでしまうというのなら、最期に好きな人に見られるのは、笑顔がいい。
翔吾の方を見つめ、頑張って笑顔を作る。
「美紅…ダメだ。お前は、お前だけは死んじゃだめだ」
苦しそうな翔吾が、私を見下ろす。
そして、グルンと体を反転させた。
梨沙に向かって向けていた背は反転したことで壁に向き、反対に、翔吾の背が梨沙を向く。
そして、翔吾の広い背の向こうで、
「うふふ…」
梨沙の笑い声が聞こえた。
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