「美紅、今日はゆっくりしてなさい」
お風呂から出てリビングに行くと、お母さんが心配そうに声をかけてきた。
「うん。でも、翔吾が心配だから、翔吾のお見舞いに行ってきてもいい?」
もしかしたら、面会拒否されるかもしれない。
なんと言っても、状態を知らない。
まだ目覚めてないかもしれない。
「…お昼食べたら行っておいで。翔吾君の入院してる病院は、丘の上の病院。知ってるわね?」
丘の上の病院は、ここら辺で一番設備が整っていて大きい病院だ。
「ありがと、お母さん」
翔吾の家族とも家族ぐるみでの付き合いがある。
だからだろう。
お母さんが翔吾の入院先を知っていたのは。
翔吾のお見舞いに早く行きたくて、お母さんを急かしてお昼ご飯を作ってもらう。
「いただきます」
お箸を手にとったはいいけど、食べれない。
口に運んでも、手が震えて落としてしまう。
頭の中で繰り返し繰り返し…
『死』の光景が浮かぶ。
「食べれないなら、無理して食べなくてもいいわよ」
優しい声でそう言われ、箸をおいた。