一方愛華は……ただひたすら走り続けていた。

唇に…口の中に残る、彪河の感覚を消し去りたくて……。

溢れ出した涙は、何時まで経っても止まらない。


「…ひゅ……彪…河の…馬っ鹿…」


鞄を置き去りにしたまま、靴を履き変え、愛華は家にダッシュで帰った。

こんな姿……誰にも見られたくない………。





バタンッ!

勢いよく閉まった扉。なんとか無事に家に着いた。


「何……してんだよ…」


大きな音を聞き付け、鎌樹が玄関に来た。

鎌樹は、学校が嫌いだから、出席日数が足りなくなった時だけ学校に行くようにしている。頭が良いから、勉強の心配はない。

だから今日は、家に居るのだ。


「……って!お前、凄い顔…」


鎌樹の言うように、愛華の顔は、今凄い事になっている。

目が真っ赤に腫れ、自慢のアイメイクが涙によって、崩れ落ちていた。


「れっ…鎌…樹ぃ〜〜!」


愛華は目の前に居る鎌樹に、抱き着いた。


「わっ!?何だよ!?」

「ひっく……ごめん…鎌樹」


鎌樹に抱き着いたまま、顔をうずくめ、素直に謝る愛華。

それがとっても、珍しくて、なんだか可愛く見えたので。


「あ〜しょうがねぇな。よしよし…何があったんだよ?」


優しく抱きしめ、ぽんぽんと頭を撫でた。


「ひゅ…彪河に…キスされた……」