彪河はもう、怒りで煮え繰り返る寸前だった。


大体、俺が女ったらしなの、知ってんじゃねぇのかよ?

…馬鹿じゃねぇの。

マジ付き合ってらんねぇ――…。


「千波」

《え、何――…?》


千波は、彪河の声色が突然変わったため、何だか落ち着かない様子が、携帯を通しても伝わって来た。

彪河はそんな千波を尻目に、淡々と言葉を続けた。


「俺、他に好きな奴が出来た。今回は、かなり本気(マジ)なんだ。だから、千波とはもう付き合えない」

《そんなっ……待って!やっぱりあたしとは、遊びだったの!?本気って…その相手って誰なのよ!?》


彪河の言葉に、千波は引き下がる気配が、全く無い。

そして更に、彪河が一番触れてほしくない部分にまで、首を突っ込んできた。

彪河は、観念するかのように、盛大な溜息をついて、ボソッと呟いた。


「…愛華だよ。宮原、愛華」


その時の千波はきっと、電話越しにわなわなと震えていただろう。


《何よ、それっ!あたしよりも宮原 愛華の方が、いいって言うの!?……信じらんないっ!!あたしは…絶対許さないんだからっ!》


『ふんっ!』と言う千波の声が聞こえたと同時に、ブツッと虚しい音を立てて電話は切れた。

彪河は思わず溜息をつく。

そんな彪河の顔を、鎌樹は心配そうに覗き込んだ。


「お前…今の、大丈夫かよ?こっちまで会話、だだ漏れだったぞ?」

「嗚呼、もういいよ。面倒くせぇ…」


彪河は自分のベットにもたれ掛かり、はぁ……と深い溜息をついた。


「はぁ…、お前も大変だな?」

「お蔭様で」

「へっ、本当に気にしてんのかよ」



…この時、二人はまだ気付いてなかった。

彪河の軽率な言動が、

愛華と彪河の関係を崩す事になるなんて――…。