大嫌いな最愛の彼氏【短編】

リビングには、愛華と彪河、二人きり。

愛華は、この前の事もあって、とても逃げ出したい気分だった。


「なぁ……」


先に口を開いたのは、彪河の方だ。


「…何?」

「この前言った事、あれ、嘘じゃないから。マジ本気」


腰掛けている愛華を、じっ…と見つめる彪河。

愛華は眉間に皺が寄り、『はぁ?』と間抜けな声が出た。


「この前言った事って何?」


彪河に尋ねる。すると、みるみる内に、彪河の顔は、真っ赤に染まっていった。

彪河の異変に気がついた愛華が、少し心配そうな口調で聞く。


「な…どうしたんだよ?」


立ち上がって、彪河の顔を覗いてみた。

彪河は、愛華から瞳を逸らすように、右を向く。

そして喋り始めた。


「だからっ…その……俺が、あ…愛華の事……好きだ…って話……」


それだけ言い終えると、その場にへなっと、しゃがみ込んでしまった。

愛華は、一体何を言われたのか解らなくて、混乱している。


「は…?ひゅ、彪河が……アタシを…好き?」


こちらも、驚き過ぎて、その場にしゃがみ込んでしまう。

頭を抱えて俯く彪河に、愛華は尋ねた。


「な、なぁ…何かの冗談だろ?」


彪河は首を横に振る。

そして、おもむろに顔を上げると、愛華を見つめて話し始めた。


「冗談なんかじゃねぇよ…。俺は、愛華が好きだ。始めは全然だったけど、俺に対抗心剥き出しのところとか、本当は優しいところとか…あんだけ口喧嘩してるなかで、愛華の事色々解ってさ……。気がついたら、愛華がすんげぇ可愛く見えて…好きになってたんだ」


彪河の瞳は真っ直ぐで、愛華は、瞳を逸らす事が出来なかった。


「あの時、いきなりキスしたのは、その……想いの伝わらない張本人に、そのまんまの事言われて……凄く腹が立った。そんで、愛華の事、めちゃくちゃにしてやりたくなったんだよ…」


『ごめんな…』そう呟いて、愛華の頬に、手を伸ばす。

触れた愛華の頬は、とても柔らかく、すべすべで繊細だった。

このまま、ずっと触れていたい……彪河はそう思った。