君影草

と、

額に押し付けていた結衣の手が、北河のそれを握るようにゆっくりと動く

そんな気配に、はたと顔を上げる

「結衣?」

ゆっくりと、力なく、けれど確実に結衣の手が動いていく

決して昔のようではなくても、結衣の指先が手の甲に触れる

それを握り返す、と表現していいのかはわからないけれど、

でも、それだけで十分だった

そっと視線を移すと

結衣の真っ黒な瞳がうっすらと開かれ、確実に北河を捕えていた

途端に胸を埋め尽くす言い合わさせない感情

うれしさと安心と

長い長い暗闇をやっと抜け出した時のような解放感と安堵

色々な気持ちがない交ぜになったまま、

「結衣」

もう一度呼ぶと

裕君

とかすれた声で結衣が返してくる