君影草

「結衣…」

少しだけ頬の色がいつもよりいいような気がする

それくらいしか変化が見受けられない

「目覚めた時、結衣さんが北河さんを呼んだのよ」

そう言ってくれたのは、ドアのところに立つ女医

北河が振り返るといつもよりもさらに優しく、穏やかに微笑む

「花瓶の中のスズランを見て、裕君って」

北河さんのことでしょう?

「結衣が…」

その声を聞きたかった

「目が覚めたら一応呼んでくれる?」

そう言い残して病室のドアが閉まる

残された北河は、椅子を引っ張ってきて結衣の横に腰かける

そっと前髪をかき分けてやり、その頬に触れる

「結衣」

名を口にし、手を握って額に押し付けて時を過ごす

結衣の両親が置いて行った置時計の音が狭い室内に響く

どれくらいそうしていただろうか

いつの間にか外は真っ暗になり、部屋は電気の照明に照らされている