君影草

「え?」

突然の告白に桜城奈々絵は、唖然と向かい側の北河を見つめる

流れるのは沈黙

「今、なんて言いました?」

やっと口から出たのは、確認の言葉

周りはがやがやと人の話声が響いているが、二人の周囲だけ遮断されたように違う時が流れる

「ごめん。ずっと待ってる人がいるんだ」

謝罪は、何に対してだろう

彼女の気持ちにこたえられないことだろうか

それとも今まで期待させたことだろうか

「つまり、…好きな人がいるってことですか」

「いや、恋人…かな」

少なくとも自分はまだそのつもりだ

「北河さんは、その人のことが大切なんですか」

「…うん」

大切だ

結衣は何よりもどんなものよりも大切な人だ

「待ってるってどういうことですか」

今にも泣き出しそうな奈々絵の瞳を真っ直ぐにとらえる

ごめん、そう心の中でもう一度つぶやく