君影草

「誰も責めやしないさ」

シンと静まり返った部屋に医師の声が淡々と響く

「北河が違う人と違う人生を歩み始めようとこのまま大草さんを気のすむまで待っていようと」

誰一人として責める人はいない

だって、それは北河が決めること

「……先生だったらどうしますか」

「待つだろうな。気が済むまで。いつになったとしても自分がもういいと思えるまで待ち続けると思う」

まあ、何度もこれでいいのかって思うことはあるんだろうけどな

医師のつぶやきが静かな部屋に消えていく

決心が揺らぐのは、周りが北河の姿勢を知らないからだ

いい加減奈々絵に対して思いやりある行動をとってもいいんじゃないのかと非難する智樹

嫌味なく、けれどはっきりと好意を向けてくれる奈々絵

待たなくていいよ、と言ってくれる結衣の両親

こうまで揃うともう結衣を諦めるしかないのだろうか

そうした方がいいのだろうか

どんな考えが頭をよぎる