君影草

「…この間、結衣の両親に言われたんです」

北河の言葉に視線を向けると、少し頼りなげな背中が視界に入る

「結衣を待っていてくれるのはすごくうれしいけれど、でももし結衣以外に大切な人が見つかったら何も無理してまっていてくれなくてもいいんだって」

思い出すのは温かさだけが舌に残った食堂のカフェラテ

「まだ若いんだから出逢いだってあるだろうし、それにいつ目覚めるかわからない、目覚めても果たして昔のように戻れるかもわからない状況でその責を負わすことはできないって」

だからもう待たなくていいよ

そう言ってくれた結衣の両親は、すごく優しいのだと思う

待たなくていい

そう言ってくれたことで結衣に対する北河の後ろめたさはだいぶ減る

いつか結衣ではない誰かを選んだとしても

結衣の前から姿を消すことになったとしても

その一言があるだけで過去を振り返る回数が減るような気がする