君影草

「可能性としては0じゃない。でもいつかと聞かれれば、明日かも知れないし、一カ月後、一年後、もしくは5年、10年先かも知れない。それに、」

「それに、もし目覚めても結衣の体が昔のように動くとは限らない、ですよね」

無言が彼の同意だった

ふと肩で息をする北河に

「スズランの花言葉はスズランを5月1日に貰った人には幸福が訪れるっていうフランスの習慣から来てるらしいな」

全く違う話題を振ってきた医師を少し驚いたように振り返る

「あの女医が隣でスズランの花言葉はどうのって騒いでてな。たまたま聞いてて覚えた」

少しうんざりしたように見えるのは気のせいだろうか

「もし、スズランが本当に幸福を届けてくれるなら、それをことあるごとに貰ってる大草さんはきっといつか意識を戻すんじゃないかって、医者がこんな非科学的なことを言っちゃいけないんだろうが、少し信じてみてもいいと思うよ」

そう言って窓の外を眺める医師の瞳は結衣と同じ色

けれど、結衣の方が無邪気で丸い

きっとこの医師もあの女医と同じく結衣の回復を信じている