私は分厚い岩壁から、ぱっと開けた場所に出た。頭上から心地の良い朝日が注ぐ…ここが我ら仙鳥の城《ククル・カルム》。

陽光の差し込む頭上を見上げると…樹齢十数億年とも言われる太古の巨樹の折れた幹先と、屋根のように覆い茂る若枝。青々とした木の葉達…そして、その枝々の隙間から青い空が見える。

そう…ここは岩山窟の中ではない。太古の昔に朽ちた巨王樹が遺した幹株の中だ。その空洞と化した広大で美しきその中を、我ら仙鳥は居住地としている。

その幹の中があまりにも広過ぎて、それに対比してゆっくりと翔ぶ仲間達の姿が、まるで小さな羽虫のように見える。

カルムの奥に立つ若樹の枝に停まっている、私の体の何倍とも知れない程の大きな紅い仙鳥。私がそこまで行くのでさえも、いくらか時間を有する距離だ。


『…皇鳳さま』


私は皇鳳さまの停まる樹の下に、ふわりと下り立った。目の前の皇鳳さまの美しく長い4本の尾羽が、枝から垂れて地草に触れている。


『戻ったかアシパロフよ。外海はどうであった?』


皇鳳さまの鷹のような金色の瞳が、パチパチとまばたきをしながら私を見る。
私は雄麒に報告したのと同じく、皇鳳さまにも報告をした。


『…しかし、やはりチーリンの一頭が、人間の手により殺められ…その尊体が持ち去られたという情報は真実でした…』

『そうか…偵察ご苦労であった』

『アシパロフさまーお帰りなさいませー』


小さなセキレイの群れが、私の軍刀とベルトや鞘を嘴や脚を使い運んできた。私はセキレイ達に軽く礼を言い、それらを受け取る。

素早くベルトを腰に巻き、軍刀の鞘をベルトに装着する。
そして軍刀を鞘に収めた瞬間、キーンという心地好い金属音が辺りに鳴り響いた。


『皇鳳さま…仙獣は言っていました。またこの森が、人間達の侵入により戦の地となる恐れが有ると…』


私は翼を広げ、身振り翼振りで皇鳳さまに伝えた。人間達が侵入してくる目的…それは聞かずとも明確だ。


『私、空護士団・将長アシパロフは、この身を呈してでも必ず、皇鳳さまをお護り致します。どうぞ私めを信じてご安心ください』

『アシパロフよ。だがお前やカルムの民の者らに万が一の危態が起こり得よう時には、私も戦地へ赴こうぞ』


私は皇鳳さまのその言葉を制した。人間達が攻め繰る目的は、皇鳳さまの身の捕獲なのだ。それは絶対に許される事ではない。






…それから…ひと月ほど経った、ある朝の事だ…。