地上高3000mの大空を、時折突風に煽られながらも優雅に翔ぶ…そう。人間達が想うように、それはそれは心地好いものだ。

私は、この広い広い島の上空をゆっくりと回って一望し、方向を転換して森へと下りる。
四千余年という長い月日の間、この島を見守ってきた巨樹達。その密集する深い森の中に、私は音も無くふわりふわりと羽ばたきながら、その巨樹の一つの枝にそっと停まった。

暗い暗い森の中に、巨樹達の枝々の隙間を縫って差し込み、森を美しく明るく照らす暖かい朝の日差し。

人間達には感付かれない我らの気配も、『彼ら』ははっきりと感じ得ている。そして彼らのうちの1頭が私の停まる巨樹の下へと、矢のように音も無くやってきた。


『ククルの雄鳳よ、外海の様子はどうであった…?』


私のほうを見上げる仙獣。私は彼の前にふわりと降りた。

『おはよう。チーリンの雄麒。今朝も人間達の船は見受けられなかった』

『そうか。お前達にはいつもいつも世話を掛ける。済まない…』

『何を固苦しい事を。我らはこの島と森に、共に生まれた兄弟ではないか』


ツサラ=チーリン。鹿に似たな姿で、全身は龍のような金鱗と白毛に覆われ、額には後方へと伸びる1本の長い角がある。体格は馬や牛とは比べ物にならない程に大きい。


『雄麒よ、あなたの同胞が一頭、人間達に命を断たれ、その尊体は持ち去られたと聞いたのだが』

『その通りだ』


人間達の国では、彼らの角は煎じて飲ませると死者をも甦らせ、その血肉を食した者は、鬼のような強靭な猛者になれると伝えられている。


『だが、お前達も気を付けることだ…』


言われる通り。我らの血肉を食した生身の人間は、不老長寿になれると伝えられているからだ。


『また数百年の昔のように、この島や森が人間によって荒らされてしまうのか…』

『その時は我ら、死を覚悟してでも再び奴等に挑もうぞ』

『あぁ。我らも共に戦います』






私は森の中に走り去る雄麒の姿を見送り、彼とは別の森の奥へと羽音無く翔び向かう。

小さな鳥達のさえずりに耳を傾け、森の様子を伺いながら翔び行くと…目の前に岩山のような壁面が見えてきた。
その壁面の大きく開いた暗い穴の中に、私は臆することなくそのままの勢いを保ちながら翔び入る。

しばらく研ぎ澄ました感覚だけを頼りに翔び進むと、ぽつりと光が見えてくる。そして私はその光差す中へと飛び込んだ…。