「要らない要らない。俺たちの味覚は、君たちとは少し違うから」
「?」
なんだろう。
意味がわからなくて首を傾げる。
他の大陸から来た方々なのかな……?
盗賊様のような出で立ちをしているジャック様という方が何度目かの溜息を吐いた時だった。
突然、扉が勢いよく開かれて。
「カイル、ジャック、お前達来るなら来ると前もって……!」
扉を開けた人物の顔がふとこちらを向いた。
目が合う。
微かに見開いていた瞳が、次の瞬間には鋭さを増した。
あの時。
あの時、あの男の人を叱りつけた時よりもずっと刺を、冷たさを孕んでる。
思わずびくっとなってぎゅっと強く胸の盆を抱え直す。
ま、まずい。
帰れという雰囲気だ。
出て行かなきゃ。
震える足に力を入れる。
お願い、足、動いて。
おねが
「オレ達が呼んだんだ、タルート。こんな小せぇ城にしちゃ、なかなかかわいーメイドだよなァ?」
私達の間の何とも言い難い空気を破るように、そんな場違いな声がした。
はっと見ると、それまで溜息ばかり吐いてたジャック様が白い歯を見せて笑っていた。
それにカイル様も同調して、空いている自分の隣に来るよう、タルート様に告げる。
「………」
無言でタルート様は目を逸らした。
そしてそのまま、テーブルまで歩いていき、椅子に腰かける。
途端にふっと体の力が抜けて、ほっと息を吐く。
同時に足も動いた。
部屋を出るのではなく、茶の用意をしようとその場を一旦離れる。
「久しぶりだなぁタルート。最後に会ったのは2年前…だったか?」
「ああ。お互い、変わりないようで安心した」
「…待て。なんでカイルには笑顔向けて俺は汚ねぇ鼠でも見るような目で見るんだ?」
「鏡を見ろ。城の中を闊歩する恰好ではないだろう」
「そーは言ってもなー。職業柄、貴族が着るようなキレーなもんは、やっぱり合わなかったんだよな」
「傭兵以外に城に雇われたことが?」
「これでも、将軍クラスはいけると自負してるんだがなァー…」
場内でお見かけすることさえ少ないのだから、普段どんな顔をしてらっしゃるかわからない。
だけれどジャック様やカイル様と話すタルート様の顔は穏やかそのもので。
二人に向けるまなざしは優しい。
それが少しだけ羨ましく、私に向けられないのがさみしい気がして(おこがましいけど)、お茶をテーブルの上に置いて一歩下がる。
「…では私はこれで失礼いたしますので、また何かありましたらお呼び下さい」
赤の他人がこの場にいては、満足に話らしい話もできないだろう。
それに次の仕事もある。
3人に営業用のスマイルを向けてから、くるりと背中を向け部屋を出る。
「ありがとな、メイドちゃん」
ドアを開ける際、誰かの声が聞こえた気がしたが振り返らずに廊下へ出る。
『さて! 早速本題に入るが、ターレット、聞いて驚くなよ? 我らが同胞が、』
閉じたドアの向こうでダンッと強い音がしたので思わず聞き耳を立ててしまったが、すぐにハッとして体を離した。
まだお仕事が残ってるというのに、私のバカばか。
拳でコツンと頭を叩いて、一歩踏み出す。
……素敵な人たちだったな……。