「だろっ?じゃ帰ろ帰ろ♪」
龍くんの表情がパッと明るくなるのが分かった。ぎゅって私の手を握ってくれて、ナースステーションの中から事の成り行きを見守ってた先輩達に『お疲れっした~』とヒラヒラ手を振ってる。
龍くんに引っ張られるようにエレベーターのほうへ歩き出しながら後ろを振り向くと………もう真奈美さんの姿はなかった。
「うわ寒っ」
職員用出口の戸を開けると院内の暖かさに慣れた体に冬の冷たい風が染みる。
手に持ってたジャケットに袖を通してプルプル震えてる。
「はぁ………無事帰れてよかった」
すっかり暗くなった空を見上げハーッと白い息を吐きながらぽつりと呟く龍くん。
「璃乃さんの彼は?」
「あぁ、先帰った」
「そっか……」
「ん」
その横顔を見て、そういえば自分の要領の悪さのせいで迷惑をかけてしまった事を思い出した。
「なんか………ごめんね。こんなとこまでわざわざ」
「ん~?………なんで謝ってんの?」
「だって…職場で私達の関係ばらすことになっちゃって。恥ずかしい思いさせちゃったなぁって」
「…………」
「それに璃乃さん達にも迷惑かけちゃって」
まともに龍くんの顔が見れない。ただアスファルトから響く二人の足音だけが耳に残る。
「いんじゃない?別に」
「え?」
意外な返事に顔を上げて龍くんを見つめたまま思わず立ち止まった。
ぽっけに手を突っ込み寒そうに身を縮めながら龍くんも足を止める。
「ライトの彼女が替わってくれたのはラッキーだったけどさ。あそこに二人で行ったのは利害が一致しただけ。俺らの意思だから誰のせいでもなければ誰が悪いわけでもない」
「?」
「つまりね。俺もライトもいつまでも隠しておきたくなかったの!これから近い将来の為に俺たちのものって宣言したいじゃん。考えがガキだからさ」


