顔を上げた。





目の前には忘れようとして忘れられなかった大好きな人がいる。






「風太」





街灯に照らされた彼の鼻は赤く染まっていた。


何時間彼はここに居たのだろう。





「朱里、どこ言ってたんだよ…」




その声は今まで聞いた中で最もか弱く、不安に満ちた声だった。

すごく私のことを心配していたことが分かる。



でも何で?
何で心配してくれてたの?
そんなこと私がされていいの?




「都内の、親戚の所に、泊まってた。都内に、取りたい塾の、冬期講習の講座が、あったから」




久しぶりに風太と話してつい動揺して言葉が途切れ途切れになってしまった。


不安は私のその言葉を聞くとホッとしたかのように肩をなで下ろす。




「そっか…。朱里のお母さんに聞いても教えてくれなかったから、てっきり俺のことを避けてどこかへ言ったのかもしれない」




お母さん、私のこと風太に言わなかったんだ…



お母さんはなつきさんと違って落ち着いているけど、その分観察力がすごい。
私の些細な感情をすぐに汲み取ってくれる。



だから今回も終業式の日、落ち込んで帰ってきた私を見て、風太と何かあったのかと思ったのかもしれない。

お母さんには風太と付き合うことになったっていうのは報告してあるから。