笑ってください






「有名企業の社員で将来期待のエース。大学も良いところを出てて、親は医者でお兄さんも医者。だからお金を沢山持っているのよ、彼」

「は?だからってそこまでされて一緒にいることないだろ」



驚いたのもあるし、呆れた。

綺麗で、生徒も虜にしてしまう鵜野山先生でもお金に目がないんだ。


だったら外見が良くてもクズだろ、と思ってたけど、鵜野山先生は一瞬顔を歪めた。



ほんの、一瞬。






「だって彼なら、彼と結婚するなら私の両親を喜ばせることが出来ると思ったから」




その言葉を聞いてそれまで思っていたことがバカらしく思えた。




「私の両親は本当の親じゃないの。血が繋がってない親。
本当の親は私が小さい頃に亡くなってしまって、施設に預けられた私を今の親が引き取ってくれたの。

本当の親じゃないけれど、とてもよくしてくれて、まるで自分の子供のように育ててくれたわ。育て親には子供もいなくて、二人の愛情を沢山貰って育った。
だから恩返しがしたいのよ。だから裕福な人と結婚して親を安心させたい」




そのために自分を犠牲にするってこと?


それってなんだか間違っているような気がしたけど、鵜野山先生はそれが一番だと信じているみたいだし、俺がその親のために何か出来るわけでもないから声に出してまで間違ってるとは言えなかった。



「他に彼氏から暴力を振られていることを知っている人はいるんですか?」



せめて話を聞いてくれる人とか。



「そんなのいないわ」




きっぱりとそう言った。