「ごめんね朱里ちゃん。なつき、朱里ちゃんが来てくれて嬉しいんだよ」
悪気はないからと付け足して洋介さんは言う。
「そうそう、朱里ちゃんが来てくれて嬉しいのよ~!洋介ったら私の料理全然食べてくれないから」
「食べているよ。ただ胃がそんなに大きくないから…」
「言い訳する男は惨めね」
「な、なつき……」
ガーンと効果音が付きそうな洋介さん。
どうやら洋介さんはなつきさんの尻に敷かれているらしい。
でも何だかんだ仲良しな二人。
見ていてとても楽しい気分になる。
「あーちゃんあーちゃん」
不意に呼ばれた方を向くと、向かいの席に座っている、今年三才になったコウくんが私の方を向いている。
最近ちゃんと喋れるようになったコウくんは私のことをあーちゃんと呼ぶ。
「何?コウくん?」
「あーちゃん、いっぱいたべてね」
にっこり笑ったコウくんに思わず私も釣られて笑ってしまう。
正にコウくんは天使だ。
可愛いすぎる。
何個心臓があったとしても足らないくらい笑顔が可愛い。
―――――(ここでならきっと忘れられるはず)
そう、賑やかな夕飯の中思った。
私は風太と別れた次の日の冬休みから、お母さんと年の離れた妹のなつきさんの家で過ごしていた。
理由は簡単で、私が取りたい塾の冬期講習の講座が都内の校舎にしかなくて、家から通うにはちょっと遠い。
だから都内に住んでいるなつきさんの家にお邪魔させて頂いている、というわけだ。
別に風太と離れたいから、というわけじゃない。
………いや、今となっては風太と離れられて良かったけど。

