「今、笑えると思う?」
「笑ってよ」
「笑えねーよ」
「風太なら出来る」
「朱里は俺を過大評価し過ぎだろ」
「してないよ」
んー、風太はどうしても笑ってくれないようだ。
なんでそんな頑なに拒むのか分からない。
仕方ない、ちょっと強引だけど……
「!?朱里何してんだよ!」
「笑ってもらってるの」
「はあ?」
風太の頬をぐいっと上げて無理やり口角を上げてみせる。
自分から笑わないのだから力ずくでいくしかない。
「ほら!笑ってるよ!」
「笑ってねーって」
心底嫌そうな顔をする風太。
確かに笑ってはいない、かもしれない。
だって、えくぼが見えないから。
どうしたらえくぼが見える笑顔が出るかな?なんて考えていた時、もう一度風太のケータイが震える。
相手はもちろん鵜野山先生だと思う。
なら、私はもう行かなくちゃいけない。
風太の頬にあった手を下ろし、一歩後ろへ下がった。
「じゃあ、ばいばい」
風太に背を向けて走り出す。
サヨナラの返事も聞かずに全力で地面を蹴った。

