誠「そう言えばメグってどこ中?中学一緒だったヤツいないのか?」

突然マコに問われた。
ちなみに今は、1日に発車する本数が少ない地方の列車に揺られている。
ユキのコネで、親父さんが通っている音楽用の練習場に行く事が許されたのだ。

どうやらユキ本人も親の影響で音楽を始めたらしく、その技量は葵もマコも、加えて彼の親父さんも言うことは何もないほど卓越してるらしい。
…ウチとは正反対だ。

寵「…西山田中学だよ」

誠「えっ?! 西山田って…。あんな遠い所から来てんだお前。じゃあ同中のヤツいねぇだろ?」

寵「うんいないね。元々おれも積極的なタイプとかじゃないから、だから今日まで友達いなかったんだよ。おれ」

誠「そっかぁ。でもこれからはおれ達がお前のオトモダチになってやるからな!」

笑顔で言うと、マコは吊革を持っていない左の手でおれの尻を鷲掴みにしてきた。

寵「ぬおっ?!」

誠「え、ナニ感じちゃった?」

寵「感…ってアホか」

一瞬、マコの冗談に乗っかろうとしたが、おれ達が今いるここは公共の空間なので止めておいた。
おれ達4人の間に笑い声があがる。
おれは…何だかんだ言って幸せ者だったんだ。



雪「この部屋なんだ。…ごめん小さくて。元々ウチの親父が1人で使おうとした所だから、4人で入ると窮屈かも…」

その練習場はおれの家の最寄り駅から二駅離れた所に建っていた。
元々全室が予約制で、ユキの親父さんが何らかの理由でこの部屋のキャンセルをしようとしたらしい。
結局、その部屋をユキが譲り受けたという訳だ。

葵「全然。良い部屋じゃん」

誠「アンプとか全部揃ってるから、久しぶりに思い切り弾けんな」

おれのみが受付で有料のエレキギターを借り、伸びきったベルトを直しながらギターの尾にコードを繋げる。
長年鍛えられた確かな感覚で、丁寧にチューナーを合わせていった。

一回一回の練習自体を止める度に、チューナーを緩めてから保管するのがギターの鉄則なので、毎回練習前のネジの巻き加減で
演奏の優劣が決まるのだ。

個人がバラバラに音の調節を行う。
狭い部屋だからなのか、音の反響が著しく感じた。

葵「よしっ各々音出し済んだかー?
 じゃあまずメグ、お前の実力を知りたい。ユキが音頭とってるから適当な所で入ってくれ。
 ユキ、出来るな?」

雪「…オーケー」

それはつまりの所、度胸試しって事だよな…?
でも何回かは親父の会社の即席バンドで演奏はした事はあるし…。
本当に趣味とか自己満足でやってただけだから、正直言って自信がなさすぎる。

そう思っている内にユキが4つの拍をバチで打ち始めた。
当たり前だがリズムが全く乱れない。
おれの目を見て優しく笑いかけながら、ユキはおれがリズムの中に飛び込むのを待っていてくれた。

最初は目下に並べてある5本の弦しか見えてなかったが、段々自分の顔が正面に上がっていくのがわかった。

どんどん引き込まれていく。

どんどん溺れていく。″リズム″ と言う名の刺激的な快楽に。
途中から葵も入って来て、ドラムにギター、それにベースのアンサンブルになった。

(ヤベェ…、超楽い…!上手なヤツとコラボると自分まで上手くなったと思える…)

もっとやっていたいと思う裏腹に、楽譜のない曲はラストに向かっていた。