葵「バンドリーダー兼、ベース担当の如月 葵」
誠「おれはギター兼、メインボーカルの小川誠です」
雪「…ドラム担当の坂口雪緒」
寵「で、ギター兼、サイドボーカルの神崎寵夢です」
結局寒いと言っていた廊下で弁当を摘んでいるおれ達。
おれが誰かと仲むつまじく話しているだなんて、新鮮すぎる。
主に二人の会話を聞きながら、弁当に入っていた卵焼きに手を伸ばした。
その時にふと、ある疑問が脳に過ぎった。
寵「あれ、ちょっと待って…。なぁおれ達のバンド名って何?知らないんだけど」
おれの言葉に驚いた顔をする3人。
それぞれ互いの顔を見合わせると、3人は声を揃えて言い出した。
葵•誠•雪「「「せーのっ『Juvenile』」」」
葵「ロックバンドなんだよ、一応な。おれらもこの前結成したばっかだし、まだ曲作りとか、そうゆう所までは至ってないんだ」
ロックバンドなのか…。
益々興味が湧いてきた。
寵「Juvenile…『未熟者』か。おれ達にはピッタリだな」
誠「えっ!すげぇメグよく分かったなぁ!! おれなんかわざわざ辞書で調べたよ」
辞書で調べたって…。
こいつ入学式に新入生代表の挨拶してたじゃねぇか。
あれって入学試験の合計点数が一番高かったやつがやるんだろ?
(優等生でもやっぱ知らない事はあるんだ…)
寵「…英語だけは自信あんだよ。まぁそれも裏を返せば、他のやつがみんなクズなんだけど」
誠「クズだなんて言っちゃいけないっ!おれ、英語苦手だから羨ましいぞ!」
身を乗り出してマコがおれに言う。
全て本心で言っている言葉だと思えるから、こっちも素直に笑みが零れる。
寵「そっか。…ありがとう」
雪「…ねぇ葵、メグ、英語出来んだから作詞手伝って貰えば?1人じゃ大変だろ」
葵「そう…だな。なぁメグ、お前作詞とかする気あるか?実はおれアーティストの曲をカバーするより、自分達の曲を作りてぇと思ってんだよ。
基本おれは勉強出来ねぇからお前の英語力を生かしたい」
一応このバンドのリーダーだし、デビュー曲はおれが作るけどと、その後に葵は付け足した。
寵「…みんなの役に立てるかは分からないけど、おれでいいならやってみるよ」
葵「良かった。他のヤツがやると、詞の幅も広がるしな」
葵の声に重なりながら廊下のチャイムが鳴り響いた。
それを合図に、保温性の水筒の中に入っていた玄米茶を一気に口の中に流し込むと、弁当を片付け始める。
未だに気温の低い廊下で食を採っていたおれ達は、予鈴が鳴って動き始めた生徒達に物珍しい様な目で見られていた。
大分軽くなった腰を持ち上げ、弁当袋を右手に持ったおれの手は、少しだけ小刻みに震えていた。
