弁当袋を片手に、おれ達は人通りの少ない廊下に来ていた。
1対3で立っているので、こちらとしては恐ろしくて仕方ない。
誠「め…めぐむくん…。ごめんなこんな所に呼び出して。廊下寒かったな!あははは…」
寵「無理して下の名前で呼ばなくていいよ。神崎なら読めるでしょ?」
実際そんな事を思ってなくても、何だか皮肉めいた事を言ってしまった。
みるみるうちに小川の顔が悲しく歪んでいく。
まるで『やってしまった』と言うように。
そんな空気を払う為か、如月が軽く咳払いをする。
葵「…ゴホン。あー、今のは悪かったよ。悪気はないんだ。
なぁ神崎、お前おれ達の仲間になってくんねぇか?」
寵「…なかま?一緒につるむっつー事か?」
あまりこう疑いたくなかったが、この2週間ですっかり人間不信になってしまったおれは、如月の言葉が同情にしか聞こえなかった。
葵「お前が今まで通り誰ともつるみたくないって思ってんなら、別におれ達はそれで構わねぇよ。だけど今言ってんのは、おれらと一緒にバンドやんねえ?って話。
エレキ、弾けんだろ?丁度探してたんだよ」
今までずっと音楽は趣味としか扱って来なかったから、いきなりバンドとか言われても、正直いまいちピンと来ない。
それに…、よくこのおれをバンドに誘おうと思ったな…。
寵「気持ちはありがてぇけど、バンドってそれなりにチームワークが無けりゃあできないモンだろ?何でそれを未だにクラスの誰とも馴染めていないおれに言うんだよ。
この学校は生徒数も多いんだし、探せば他にもいんだろ?…何でおれなんだよ」
口を開けば卑屈な言葉しか出て来ない。
人間不信になりすぎて今までの正気を忘れてしまったのだろうか。
(おれって、最悪な人間…)
確かに今、目の前にいるこいつら全員イイヤツで、行動を共にしたら楽しくなる事は予想がつく。
でもここに来て急に友達ができ、大好きなギターを公で弾いたりする事ができるだなんて、話が美味しすぎる気がしてならない。
葵「…別に馬が合わなかったらそれはそれだ。ずっと友達として付き合っていこう。
それと、おれ達が神崎を誘った理由は… ″イイヤツ″ だからだよ」
寵「…イイヤツって、それだけじゃ何も…」
こいつらの友達選びの基準が見えなくて、頭が混乱してしまう。
誠「いやぁ~そう言ってるけどな寵夢くん。 ″イイヤツ″ って結構大事だったりするんだぞぉ~?おれ、よく葵に『お前ヤダ。面倒くさい』って言われるし」
雪「…だから、おれらには神崎くんが必要なんだ。神崎くんの様な…周りがきちんとみえるタイプの人間が」
(…おれが…必要なのか…?)
いくら昔に戻りたいと思う様な面子がいても、ここまでは言わなかった。
と言うか、普通はここまで言わない。
━━━こいつらといれば、おれは変われるのだろうか━━━
寵「……分かった。おれ、やるよ。バンド」
誠「ホントかっ!?」
小川の顔色がパァッと明るくなる。
寵「ああ。…でも、おれからもお願いがあるんだけど…、その…、おれも一緒に…つるませて欲しい…」
まさか高校生にもなって『友達になってください』的な事を言うとは思わなかった。
多分一生の汚点だ。
でも、例え一生の汚点でも、こいつらの前でならどんな姿でも『自分らしい』と言える気がするのだから不思議だ。
葵「はッ。素直じゃねぇなぁ ″メグ″ 。お友達が欲しけりゃあ、そう初めから言やあいいのに」
寵「な…っ、別にそんな事!」
誠「じゃあメグ!これから色々な事があると思うけど、いっちょよろしくぅ!!」
雪「……マコ、急にテンション上げるとまた後で物凄く疲れる事になるよ」
━━━4月中旬。
おれにとっての高校生生活は、ここから始まった様な気がした━━━
