翌日。

おれはいつもと変わらず、適当に授業を受け、何人の生徒と会話したのかをカウントして、帰りにあの河川敷で八つ当たりの様にギターを弾きまくる。
━━はずった。

(横からメチャメチャ視線を感じる…)

右隣に座る眼鏡を掛けたヤツが、とにかくおれを凝視している。
こちらも気になってしょうがない。
確か彼の名前は、坂口雪緒…くん。
昨日おれの事を見て笑いながら話していたヤツらの1人だ。

前から授業で使う資料のプリントが回ってきた。
受け取ろうと紙を掴んだのはいいが、前の席のヤツがプリントから手を離してくれない。
しょうがないから声を掛けてみる。

「あのー、プリント。手ぇ離しても大丈夫だよ?ありがとう」

「なぁ!お前ってエレキは弾けるのかっ?」

握られたプリントはそのまま、前の席の小川はおれに話し掛けてきた。
ヤツの視線は、床に置いてあるおれのギターに向けられている。

(人の話を聞いてくれよ…)
「…まぁ一応。適当に」

「大体いつからやってんの?」

「えーっと…、ギターを触ったのは5歳ぐらいかな。ウチの親父の趣味でさ」

興味本位だけで訊いてきたヤツに、何おれはここまで語ってんだろう。
心なしか隣の坂口も話を聞いて、ついぞ相槌を打っている様な気もするし…。

「…そっかぁ。そうなのかぁ~。お父様の影響なのかぁ~。」

ニンマリと笑ったと思ったら、小川は潔くプリントから手を引き、前に向き直った。
そしておれ達の列の隣の列の先頭に座っている、つまりおれの次の名簿のヤツに向けてブイサインをかましている。
小川のブイサインを受けたヤツ…如月葵も薄く笑ってブイサインを作ってみせた。

(何なんだよ、どいつもこいつも…)

気付いたら自分の中で、既にくだらない会話数のカウントは止んでいて、隣からの熱視線から逃げる様にずっと外を眺めていた。

━━━キーンコーンカーンコーン━━━

やっとの事で午前の授業が終わり、教室内が物音と話し声で溢れ出す。
隣と前がいなくなったお陰で、おれの1人の世界は久しぶりの開放感に包まれる。
あまり目立たない様に伸びをして、鞄に手を掛ける。
その刹那、

「あ…あの~ぅ、神崎…あ、何だっけ!ねぇ何て読むんだっけ葵?」

「 ″めぐむ″ だろ?お前あれだけ名簿確認してたじゃねぇか」

遂に、例の3人から声を掛けられた。