携帯電話のイヤフォンジャックにイヤフォンを差し込み、適当に音楽をかける。
ミュージックホルダーに入っているのは殆どがロックバンドのもので、特におれは英曲を昔から好んで聴いていた。
錆びた町の商店街を抜けると、県下一の川が流れる河川敷に辿り着く。
高校に入ってから見つけた場所で、何だかんだ今まで1日も欠かす事なくこの場に足を踏み入れていた。
そして家や学校で溜まったストレスを、ギターを弾く事で発散している。
この道に誰が通ろうが、そんなのは関係ない。
寧ろ、ガキの頃からずっと親父に仕込まれてきたギターを聴いて欲しいとさえ思っている。
日が傾きながらも、変わらずおれに日差しを分け与えてくれる太陽。
芝の上に腰を下ろし、ケースからそっとギターを取り出した。
かれこれ小学校の頃から使用しているそれは、頑張って手入れをしても自然と古くなってしまう。
その分思い入れが深くなっていったのもまた事実で、まだおれは当分こいつを手放したりはしないだろう。
ピックは使わずに親指を使って弦を震わせる。
ちょっとした羞恥心でこうゆうのは言いにくいが、ギターを弾いている時は、自分を見直す事ができていた。
これを次に生かすとか、そう言う事ではないが、強いて言うなら『リフレッシュする』と言った感じだろうか。
ビィーン……
(またやっちまった…。昨日も同じ所でミスしたんだよなぁ)
そして、こういったミスで演奏が止んだ時に、自分の中で今日の反省会をひっそりとする。
(えっとぉ、今日会話した人数は…)
『あ、ごめん神崎くん。ぶつかっちゃった。…え、てか神崎くんで合ってるよね…?』
『ううん大丈夫。それに神崎で合ってるから、それも大丈夫』
1人目、クラスの女子。
『はい、じゃあこれ神崎…え?何コレ。なんて読むの?ちょ…ちょうむ…?
まぁいいや。神崎!』
『X=3てす。…ちなみに ″めぐむ″ です』
空気と、教卓に置いてある座席表の振り仮名が読めない数学教師。
「…アレッ?何おれ学校行ってから6時間半で2人としか会話してないの…?1日における会話数が学校より家の方が何倍も多いって、おれどんだけクラスに馴染めてないの…?」
会話数で数えなくても、学校内で声そのものを出した回数は、お昼休みの時に廊下で躓いた際に漏れた「いてっ」と言う言葉を加えても3回のみ。
この結果には頭を抱えずにいられない。
(ひでぇ…。これは酷すぎる…!!)
勿論おれは無口でなければ、人を寄せ付けないオーラを放っている訳でもない。
…多分。
どっちかと言うと、話し掛けられればここぞとばかりに、友好に笑顔を振りまくタイプ。
でも、それでもおれの周りには誰もいない。
それどころかクラスメイトにいつまで経っても名前すら覚えてもらえない。
ヤケクソの様に、今度は思い切りギターを弾く。
その時のおれはただひたすら光の見えない闇から抜け出すのに必死で、直ぐ側の橋の上に立っている同じ制服を着た ″光″ の存在に気付きもしなかった。
「…あ、もしもし葵?
ビンゴだわ。…うん。うんそう、良い人材だよ。
おれ達のロックバンド『Juvenile』にさ」
