「それでさ、見つけたんだよ!」
「…ナニを?」
「おいもう忘れちゃったのかよぉ。ギターパートだよ!おれ達のバンドの!!」
1日の最後を締めくくる65分は古典の自習という事で、何人かの生徒は他の生徒の席に足を運んでいた。
臨時でやって来た教師はここにおらず、授業終了の5分前に課題として出しておいたプリントを回収するという、生徒にとっては何ともありがたい教師の1人である。
「そうは言っても、今までお前が推薦してきたヤツ全員が色んな意味でダメだったじゃねぇか」
長身で黒髪の男子が頬杖をつく。
今までも誘ってきた生徒は何人かいたが、ある人物はギターを全く弾けないのにエレキギターを所持していたと言う見せ掛けであったり、ある人物は ″私立″ と書いて ″勉強″ と読むプレッシャーマンであったりで、ろくな人物は見つからなかった。
会話に参加していた全員の脳内に、その時の絶望感が思い起こされる。
「あの時とは違ぇんだよ!おれの後ろの席のヤツなんだけどさ。ちょっとした時に指先に視線が行ったんだけど、″タコ″ が凄かったんだよ!あれは絶対ギターをやり込んでいるヤツの手だ!!」
「…そう言ってるけどお前はどうしたい?雪緒」
「……マコと葵が良いならおれも賛成するよ。今回はその目は確かなんだろ?」
ここで初めて会話に加わった ″雪緒″ と呼ばれる黒縁眼鏡を掛けた少年。
この話を持ち掛けた ″マコ″ は持ち前のフワフワとした髪を右手でサラリと靡かせた。
「いやぁ流石!分かっておりますな雪緒サンは。聴いたらお前等もぜってーバンドメンバーに勧誘したくなるから!きっと!」
「きっとって何だよ。あーもーいいよ分かったから。じゃあ明日あいつに声掛けてみようか」
そこで授業終了のチャイムが鳴る。
プリントを提出してからそそくさと荷物とギターを持って帰ろうとしてしまう寵夢を見やり、一同はまだ事が動いていないと言うのに、何だか無性にハラハラしてしまう。
「じゃあおれ、早速あいつを尾行して来っから!報告を楽しみに待っておれ諸君!」
「おい待つのはお前だマコ!尾行って何の為にすんだよ!やめとけ」
言い合っている内に寵夢が教室から姿を消してしまった。
寵夢の後を追いたいが、自分の肩を掴んでいる ″葵″ の手を無理矢理退ける事もできない。
「 ″音″ を聴きに行くんだよ。もしかしたら弾くかもしんねぇだろ?」
あまりにも楽しそうに笑顔を向ける彼に、″葵″ は肩から手を離し、『それじゃあ行って来い』と彼を促したのだった。
